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からかうカミノの公記録
CASE1、通称第1世界は特別区だ
天界組織が最初に作った人間世界で、他の世界よりずっと前から存在している
性別は男性と女性でライタたちが暮らす12世界と同じであった
記録を紐解くと、第1世界が出来てからウン千年後に第2世界ができ、それから数百年の間に残りの15個の世界が出来上がった
現在さらに3つの世界の誕生を控えていて、天界開発部は大忙しだった
いつからか、第1世界は忘れ去られたかのように放置されていた
数十億人が住むというのに、天界から派遣された管理者は一人だ
「…と聞いています」
ライタは天界管理部から受け取った社宅の鍵を鍵穴に差し込んだ
「そんなところに何の用だよ。てかお前管理職なのに飛ばされすぎじゃない?」
「人間だから冷遇されている部分もありますし、仕事の内容的に納得できるところもあるので…あ、地方手当がそれなりにつきます」
「マジ?」
カミノが目を輝かせた
「てかなんか懐かしいな」
社宅は、16世界の時のような集合住宅ではなく一軒家であった
しかも作りが12世界のライタの家に酷似していて、同じような家が向こう十軒と並んでいた
「あら、お引越し?」
数件先の家から出てきた中年女性が声をかけた
「はい。これからお世話になります」
「こちらこそー。手伝えることがあったらなんでも言ってね。お二人はお友達か何か?」
カミノはライタを見た
カミノは見ず知らずの他人に余計なことは言わなくてもいいと思っている派だが
ライタは迷いなく「恋人です」と答える
最近は、言ってもらえることが当たり前になっていて、それに誇らしさすら覚えていた
しかし、その時は違った
「はい。お互いこっちで仕事があったので一緒に住むことになりまして。男の二人暮らしなのでなにかとご面倒をおかけすることになると思いますが、よろしくお願いします」
ライタが人好きのする爽やかな笑顔で答えた
カミノはその返事に違和感を覚えたが、ムキになって問い詰めるほどでもない
まだ女性と話すライタを残し、先に家に入った
家の中にはすでに引越し荷物が届いていた
積み上がった段ボールの一番上に『コワレモノ』と書かれた箱があった
カミノはその箱を開けた
中にはドライフラワーと化した花束が入っていた
カミノは花束をスワッグ風にまとめて壁に掛けた
数分後、ライタがやってきた
手にはお菓子の箱とトイレットペーパーを持っていた
「どうしたの?それ」
「センネンさんからもらいました」
「センネンさん?」
「さっきの人です。トイレットペーパーは必要だからって」
「気が効くなあ」
「カミノさんはさっさと入っちゃいましたね」
「無駄話嫌い」
「子供が産まれたらご近所さんの手助けも必要になるかもしれないじゃないですか」
ライタが温かい手でカミノのお腹に触れた
※※※
16世界で、カミノはΩ性の機能を移し替えしていた
ライタの希望にも叶っていて、かつ16世界や他の第二次性を採用している世界においても安全性が保証されていたからだ
遡ること2ヶ月前
次の転勤先に行くまでの休暇も終わりに近づいてきたある日、カミノは珍しく飲み過ぎてダウンした
強烈な吐き気が翌日の夕方まで続き、薬を飲んでも一向に治らなかった
「二日酔いなんて年寄りになった気分…」
「引越しとかで疲れてるんですよ」
「でもどんなに酒飲んでセックスしまくった日だってこんなにはならなかっ…」
「それ、相手は俺じゃないですよね?」
カミノの発言にモヤモヤしながらも、ライタはかいがいしく世話をし続けた
やはり弱ってるカミノは見たくない
「明日まで続くようなら病院行きましょう。脱水症状も気になるし…」
水を飲む度にひどい吐き気に襲われるから、水分をあまり取れていなかった
「お腹すいて気持ち悪い…でも食べたら食べたで吐く…」
気持ち悪すぎて、全ての物に怒りをぶちまけたかった
それに話していると幾分気が紛れる
「バーカバーカ!なんでお前は平気なんだよ!ライタの癖に!」
「知りませんよ。カミノさん、そんなに気持ち悪いなんてもしかしてつわりじゃないんですかあははは…」
「あははは、んなわけ…」
二人はしばらく見つめあったまま固まった
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