カフェ・アイリス4 猫とカウンター

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「サバカンって変な名前ですね」 「名前ではないかもしれません」 「そうなんですか?」 「ええ。Ça vaというのはフランス語で『大丈夫』という意味なのです。canは英語で『できる』。だからこの革の首輪にもともと描かれているデザインなのかもしれません。フランス語と英語を組み合わせるというのも妙ですので名前なのかもしれませんが」 「でも今サバカンって呼んだらやって来ました」  マスターはサバカンをちょっと眺める。  サバカンはにゃぁと不満そうに鳴く。マスターがカウンター下から何かを取り出そうとするとサバカンはそわそわと足をふみふみして、マスターが開封済のサバ缶から少しだけ皿に取り分けると、嬉しそうに鳴いてガフガフとサバ缶の中身を食べ始めた。 「鯖缶が好きなだけかもしれません」 「うーん……」 「とりあえず閉店後に町内会長と交番に相談に行く予定です。首輪があるので迷子ではないかと思うのですが」 「猫は外に自由に歩かせている家もあるらしいので、そのうち出ていくのかもしれませんね」 「半野良猫というのはこのあたりもよくおりますけれども、この近くでサバカンを見たのは始めてなのです。珍しい姿をしていますから居れば気がつくのかなと」  サバカンはいわゆるサバトラという猫だ。白っぽいベースに黒のシマシマでホワイトタイガーみたいな柄、それに目が青で格好いい。サバトラだからサバなのかな。  確かに綺麗といえば綺麗な猫で、歩いていれば目を引く気はする。かといって店を開けたらいた、ということだから店前に捨てられていたわけでもないらしい。 「食品衛生法で動物を飲食店内に入れるのはよくないそうなのです。特に厨房であるカウンターの内側には。けれどもこの子は止める間もなくするりと入ってしまうので困ってしまうのです。吉岡様、なにか良いお知恵をおかし頂けますでしょうか」  うひょー! よいお知恵ですって!  推しに頼られるとか推し冥利に尽きるとはこのことだ。なんとか解決に導かねばなるまい。  先程から観察した結果、マスターは猫嫌いではない。けれども本当に困っているようだ。  先程も触ろうとしたらカウンターの内側に逃げていた。  マスターを困らせるとは極悪猫である。早く……首輪をつけてるってことはやっぱり飼い主がいるってことだよな。それにどことなく毛並みも綺麗だ。
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