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「このサバカンは手入れされている感じがあります。飼い主の方はきっとサバカンを大事にしていると思います。探しているかもしれません」
「なるほど。それはそうかもしれませんね」
「猫の移動範囲はそれほど広くないと聞いたことがあります。サバカンが迷い猫だとしたら家はこの近くでしょうから、写真を撮って迷い猫の張り紙をしてみてはどうでしょうか」
「ええ、おっしゃる通りです。早速そういたしましょう」
それで私がスマホで写真をとってコンビニでネットプリントしている間にマスターがA4サイズの紙に綺麗な枠囲いを書いて店の地図と連絡先を書き込んでいた。
★Ça va canと描かれたサバトラの雄猫をお預かりしております。
★お心当たりがある方がいらっしゃいましたら何卒ご連絡頂けますよう、お願い申し上げます。
★当方は喫茶店でございますので、長期間お預かりし続けることは出来かねます。
「わぁ。素敵です。特に地図!」
「40年もここにおりますと地図はなにかと書き慣れておりますので……」
「どのくらいの期間預かれるものなのでしょうか」
「そうですね、本当はすぐにでも保健所に連絡したほうがよいのでしょうが、サバカンは本日最初のアイリスのお客様でもありますので、あまり無碍には扱いたくはないのです」
マスターは本当に困ったように眉を下げた。
私の家はペット禁止だから預かれない。
「私がきっとサバカンの飼い主を見つけます!」
「いえ、それでは吉岡様に大変なご迷惑をおかけすることに……」
「何とか! 何とか探しますのでッ!」
思わずフンスと鼻息が出た。
マスターはぱちくりと目を瞬かせ、そしてまた申し訳無さそうに頭を下げた。いえ! 推しの役に立つことが使命ですからかえって申し訳ございません!
何やらよくわからないままお互いお辞儀の応酬をして、マスターの作ったチラシの枠囲いの中に印刷したサバカンの写真を配置していく。その間にマスターに奢りですと珈琲を入れていただいた。推しに奢られるとは恐縮至極なのであるがその穏やかな珈琲の香りは優雅な午後に至福をもたらすのであるし既に入れて頂いたのだからと深く感謝しつつ頂くしか無い。尊い。
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