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魔法というものを信じたことはあるだろうか。
今まで、様々な物語に魔法と言うものは存在してきた。手から火が出る、だとか、空から雷を落とす、なんていうようなものは
もちろんのこと、それ以外にも様々だ。
俺は、達也、22歳だ。さすがにこの歳になって、魔法を全面的に信じる、なんてことはない。それこそ、中学生くらいの時には
いつか自分に不思議な力が宿るんじゃないか、なんて思っていたが、そんなことはなかった。そんな俺が、ご飯を買おうと
コンビニに向かったある時だった。いつも通る道に、不思議な建物があった。なんだろうかと思い前を通って、驚いた。
『魔法、売ります』
魔法を売る?何を言っているんだ?最初に思ったのはそれだった。魔法なんてものがあるわけがない。それに、売ると言うのは
どういうことなのだろうか、という思いもある。買ったらその魔法が使えるようになるということか?そもそも、どんな魔法だ?
などと様々に考えた時点で、既に惹きつけられていることに気が付いた。街に突然変な建物が出来ていたとしても気にせずに
通り過ぎるのが普通だろうに、足を止めてしまっている。これも魔法かもしれないな、なんて自分の考えを一笑に付して、店へと
入った。入ってしまった、が正しいだろうか。ついさっき、自身のことを笑ったくらいなのだから無視すればいいはずなのに。
自分で自分の行動の理由がわからないまま、ボーっとしていると店の奥から声が聞こえた。
「いらっしゃい」
声のする方へ顔を向けると、そこにはいかにも、というような魔法使い風の老人がいた。
「魔法を売っていると見たのですが」
俺がそう言うと、老人は俺を下から上へ舐めあげるように見た。
「ああ、売ってるよ。何か、欲しい魔法はあるのかい?」
「え?どんな魔法でもあるんですか?」
「在庫はものによるけど・・・これが欲しいってものはないのかい?」
魔法に、在庫という概念があるのか。そもそも、どういうことなのかがわからなかったので、改めて聞いてみようと思った。
「えっと、すみません。魔法について、詳しく教えてくれませんか?僕は、魔法なんて漫画やアニメの世界でしか見たことが
なくて」
「君は魔法のことを知ってこの店に来たわけではないんだね。じゃあ、説明しよう。魔法と言うのは、ざっくりと言ってしまえば
普通の人間には使えないものだ。君が漫画やアニメで見たようなものは大体あると思っていい。それを、ここでは販売している。
だが、当然タダではないし、魔法というのは使用回数が決まっているんだ。例えば、火を起こす魔法であれば3回分でいくら、と
言ったような感じだ、わかったかな?」
理屈は通っているように聞こえたが、そもそもそれ以前の問題だろうと思った。魔法が存在しているということが確定しない状況で
お金を払うなんて馬鹿な真似はできない。
「どんな魔法が売っているかわかりませんが、実際に見せてくれませんか?」
「良いでしょう。では、一番シンプルな火を起こす魔法です」
そう言うと、老人は立ち上がって、虚空に手を向けた。そして次の瞬間、老人の手から火が出た。
「どうでしょうか」
「すごい!魔法なんて本当にあるんですね!何か仕掛けがあるんですか?」
「仕掛けはありません、と言っても疑う気持ちが強くなるのは当然でしょう。それなら、あなたも魔法を一度使ってみますか?
お試しのお題はサービスしておきますよ」
そう言われて俺はすぐに頷いた。手品であれなんであれ、タダでこんな不思議なことができるなんて、という思いがあった。
でも、どうすれば良いのだろうか、なんて思っていると老人が言った。
「はい、火を起こす魔法はもう撃てますよ」
老人が何かをしたようには見えなかった。だが、もう火を起こす魔法が使えるという。だが、そもそもどうやって使えばいいのか
なんてわかるわけがない。
「どうやって使うのでしょうか」
「簡単です。手を向けて、火よ起これ、と頭の中で考えるだけです」
そんな簡単なことで?という思いがあった。なんとなくだが、魔法と言うのは不思議な呪文を唱えて、というイメージが
あったのだが、そもそもそんなイメージすら作り物なのだろう。そんなことを思いながら、言われた通り先ほど老人が向けた方向に
手を差し出し、頭の中で呟いた。
『火よ起これ』
その瞬間、手から火が出た。自分のことなのに、自分が一番驚いた。
「熱くないでしょう?」
そう言いながら、老人が近づいてきた。確かに、手から火が出るようなことがあれば熱いだろうと思っていた。実際、多少の
火傷くらいは覚悟していた。だが、手にはなんの異常もない。こんな不思議なことがあるのだろうか。
「これが、魔法です。デメリットは特にありませんが、強いて言うなら人前で使うと好奇の目に晒されるくらいでしょうか」
そんなことを差し引いてもメリットは大きいように感じた。だがこれだけ不思議な力なのだから、きっと高いのだろう。一回分は
パフォーマンスとしてタダで試させてくれたが、実際はどうなのだろうか。
「魔法があることはわかりました。これ、1回でいくらくらいなのでしょうか」
「興味を持っていただき、ありがとうございます。1回、2980円です」
なんとも微妙な値段だ。22歳の俺からすると、あり得ないほど高いというわけでもないが、そうポンポンと買えるような値段でも
ない。これはまず、1回分だけでも買ってみるかと思った。
「それじゃ、1回分ください」
「はい、かしこまりました。ちなみに、魔法はどんな魔法が良いですか?」
ここでも俺は驚いた。まさか、全ての魔法が同じ値段なのだろうか。そもそも、どんな魔法があるかもわかっていないので、
まずはそこから聞いてみようと思った。
「どの魔法も、一律で同じ値段なのですか?」
「そちらの説明をしていませんでしたね。はい、一律2980円で購入することができます。ですが、条件が変わります」
「条件?」
「例えば、先ほどの火を起こす魔法です。2980円となると、火が出るのはほんの一瞬です。もっと長い時間火を出したいだとか、
もっと大きな火を起こしたいという場合、上位魔法があります。それらの値段については、もっと高くなります」
成程、よくできている。つまりは簡易な魔法であれば2980円だが、強力な魔法の場合は値段が上がる、ということなのだろう。
「じゃあ、テレポートができる魔法はありますか?」
「はい、ございます。2980円ですと、周囲2kmほどのテレポートが可能です。テレポートの場合は2回分買うことをおススメします」
「それはなぜですか?」
「テレポートができる回数が1回だと、帰ってこれなくなるからです」
それはそうだ。2kmほどであれば、どこかに行っても帰ってくることは可能だが、これがもっと長距離になった場合はそうは
いかない。例えば、強力なテレポートでアメリカに飛んだら、帰り用のテレポートを用意していない場合はただの不法入国者に
なる。ここまで聞いて思ったことは、魔法を使えばもっと儲けることができるのではないか、だった。先ほどの手から火が出る
魔法だって、大道芸的に見せればかなりのお金がもらえるのではないだろうか。もちろん、もっと悪い使い方はたくさんあるが、
そこは自分の中の道徳心が邪魔をした。
「魔法についてはわかりましたが、まだ買うことも決めていない俺にこんなに話をして大丈夫ですか?」
「大丈夫です。私も、魔法が特別なものだということは理解しています。なので、もしもあなたが魔法屋に行ったが魔法を
買わなかった、なんて誰かに言った時に、あなたがどんな目で見られるかはわかっているつもりです」
そう言って、老人はにやりと笑った。それもそうだ、こんな話を誰かが信じてくれるはずはないし、もしも信じた人がやって
来ても真実になるだけなのだから関係がない。
「じゃあ、魔法を一つください」
「かしこまりました。どんな魔法が欲しいですか?」
そう言われて、俺は戸惑った。魔法が欲しいとは言ったが、実際にどんな魔法が良いかということを考えていなかった。
「えっと、手から火が出る魔法をください」
突発的に言ってしまった。一体何に使うのだろうか。
「はい、それでは2980円です」
言われるがままに、お金を払った。
「はい、もうお渡ししましたよ」
そう言われたが、何も感じなかった。だがそもそも最初にお試しで魔法を使わせてもらった時だって何も感じなかったのだから、
そんなものなのだろう。
「ありがとうございました」
そう言って、俺は店を出た。さて、衝動買いしてしまったこの火が出る魔法をどう使おうか。まず思いついたのが、先ほども考えた
大道芸的な使い方だ。だが、実際のところ手から火が一瞬出る、だけではどうしようもないだろう。他に何かができれば
客を呼び止めることもできるかもしれないが、手から一瞬火が出るだけでは大してリアクションがもらえないだろう。
じゃあなぜ手から火が出る魔法にしたかと言われたら、何も思いつかなかったからだった。テレポートの魔法は2kmまでしか
移動できない上に2回分買わないと意味がないと言われたので値段的に高いし、水を起こしたければ水道をひねればいい。雷を
呼びたいのであれば、雷ではないが電気なんてそこら中にあふれている。となると、良いものが思いつかなかったのだ。そもそも、
どんな魔法があるかもしっかりと把握していなかったことも問題だ。もっと詳しく聞けば良かったのだが、何を聞けばいいのかすら
わからない状況だったので、それもできなかった。それに、どんな魔法があるのかという質問は一度している。
そんなことを考えながら街を歩いたが、火が必要な現場なんて中々なかった。喫煙所でタバコを吸っている人を見かけはしたが、
ライターを持っているだろう。どこかで焚火をしているような人もいなければ、寒さに凍える人もいない。これは無駄な買い物を
したかなと思ったある時、前から友人の賢人が歩いてきた。
「よう、賢人。どうしたんだ?」
「おお、達也。これからバーベキューをしようと思ってな。お前もどうだ?」
絶好のタイミングである。バーベキューをする上で、火が必要にならないことなんてない。それに、チャッカマンやライターで
火を付けても火はすぐには安定しないだろうから、俺の出番だ。
「いいね、ぜひ参加させてくれ。ちなみに、火は俺に任せてくれ」
突然の俺の火は任せてくれアピールに賢人は不思議そうな顔をしたが、ライターでも持っているのか?といったような顔をして
了承した。そして賢人と一緒に、バーベキューをしているという川沿いまで向かった。到着すると、既に友人が数人いた。
「よし、始めようか。それじゃ、火を起こそう」
「だから、俺に任せてくれって」
そう言って、薪が積んである場所の前に向かった。そして、頭の中で念じた。それと同時に手から火が出て、火はあっという間に
薪に乗り移った。
「ほら、火が付いたぞ」
「本当だ!でも、どうやったんだ?」
「なに、魔法だよ」
そう言って、俺はにやりと笑った。当然だが、そんなことに友人達は納得していない。といって細かく話をしても仕方がないので、
その日はそのままバーベキューを楽しんだ。そして家に帰って、今日の出来事を思い返した。まず、魔法屋という不思議な場所を
見つけた。そんな怪しい場所は、いつもであればスルーするはずなのに、今日は入ってしまった。そして中に入り、魔法の話を
聞いて、実際に魔法も買った。衝動買いと言われればそこまでだが、そんなことがあるだろうか、と思った。ここでふと、こんな
ことをさせたのも魔法の力か?なんて思ったが、そもそもそんな力があるのだったら魔法屋なんて開く必要がないし、道徳を
無視してしまえばお金を稼ぐ方法なんていくらでもある。早い話が、銀行にテレポートで侵入してしまえば良いのだから。
ここまで考えて、今日の魔法の使い方を自分で笑った。他に使い道が思いつかなかったとはいえ、まさかバーベキューの火起こしに
使うとは。もっといい使い道はなかっただろうかと考えたが、それでいえばそもそもなぜ火を起こす魔法を買ったのか、という
ことになる。そのことについては先ほど悩んだ通りなので、次に魔法を買いに行く時はもっとしっかりと選ばせてもらおうと思い、
その日は眠りについた。それからというもの、中々魔法屋に行かなかった。日常生活がそれなりに忙しかったし、
お金だって無制限にあるわけではないので行っても仕方がないと思って行かなかった。そんなある時、ふと思い立って俺は
魔法屋に向かった。何を買うかということについては決めていない。だが今日は、前回よりもたくさん話を聞く気でいる。
そんな気持ちで歩いていると、ほどなくして魔法屋に着いた。
「いらっしゃい」
「また魔法が欲しいんですが」
俺がそう言うと、魔法屋の老人は驚いた顔をした。
「おや、君は・・・この間、火を起こす魔法を買った子か」
「覚えているんですか?」
「君が思っている以上に、この店は見つけにくいんだよ。知らなかったかな?」
見つけにくいも何も、街中にぽつんとあるじゃないかと思った。だがもしかしたら何かしらの魔法で見えにくくしているとか
そういう話なのかもしれない。その場合、なぜ俺に見えているのかは不思議だが、聞かないことにした。
「それで、また火を起こす魔法でいいのかい?」
「いえ、次は別の魔法が欲しいんです。他にどんな魔法があるか、教えてくれませんか?」
「わかりました。それでは説明していきます」
それからの話は長かった。火を起こす魔法の他にも水や雷、風を起こす魔法や、空を飛ぶ魔法、テレポートする魔法に加えて
物を浮かせる魔法なんてものまであった。そんな中で、一つ気になる魔法があった。それは、植物の成長を早める魔法だ。
そんなもの、何に使うかと言われればそうなのだが、俺の母が家の庭に花が少ないことを嘆いていたことがあった。そこで、
母のためにこの魔法を使って、適当な花を一気に成長させてやればいいのではないかと思ったのだ。
「値段は2980円で、この魔法は周囲3メートルに有効だよ」
周囲3メートルもあれば、かなりの花を一気に咲かせることができるのではないだろうか。
「ぜひ、ください」
即決で魔法を購入した。そして、その足で花屋に向かった。
「成長がどれだけ遅くても構わないので、花の種をたくさんください」
俺がそう言うと、花屋さんは不思議そうな顔をしたが、たくさんの花の種をくれた。種について説明をしてくれそうになったが、
俺は聞かずに家に帰った。そして、庭に行き、買った種を適当にばらまいた。
『植物よ、成長しろ』
俺の願いと同時に、俺の周囲が花一面になった。ついでに雑草も少し成長してしまったが、まあご愛敬だろう。魔法が終わった
タイミングで、母が庭に出てきた。
「わ、これどうしたの?どこかで買ってきたの?」
「えーっと、うん、まぁそんなところだよ」
「こんなに花があるなんて凄いわね!近くにありすぎると栄養が偏っちゃうから、移動させましょ」
母がそう言ったので、そこからは花を移動させる作業だ。こんな手間がかかるなら、最初から花を買って来ればよかった、と
少し後悔した。
さて、これまでに二つの魔法を買ったが、果たして意味はあっただろうか。火を起こす魔法は、バーベキューでの火起こしに
使ったが、あれは極論ライターで良かった。ライターでは火がつきにくいなどはあるかもしれないが、工夫次第でなんとでも
なったはずだ。次に買った植物の成長を早める魔法については、それこそ時間が解決してくれる問題だ。もちろん、一気に草木や
花が手に入ることは嬉しいかもしれないが、それは花屋にでも頼めばいい。2980円もあれば、それなりに花も買えただろう。
そんなことを考えて、俺は無駄な魔法を買ってしまったと後悔した。もし次に魔法を買う時は、もっと良い魔法を買おうと思った。
だが、ここで思ったのは良い魔法とは何か、だった。魔法屋の老人が説明してくれた魔法は、全て別の方法でどうにかなること
ばかりなのだ。水を起こす魔法なんて、それこそ蛇口をひねれば水なんていくらでも出てくるし、雷を起こしたいと思ったことが
ない。風を起こす魔法なんて言われても、風なんていつでも吹いている。テレポートは2980円では2kmと言っていたので、
そのくらいの距離であれば電車で十分だし、空を飛ぶ魔法については、空を飛ぶと言うのは人間の夢ではあるが、それで何かが
できるとは思えなかった。もう、これ以上無駄な買い物はしないようにしよう。そう思って、その日は眠りについた。
翌日のことだった。街を歩いていると、再び賢人が前を歩いてきた。
「よう賢人」
「お、ちょうどよかった!今からお前に会いに行こうと思ってたんだよ」
賢人がそんなことを言ってきた。それなら事前に連絡しろよ、と思ったが賢人は突然来るようなタイプだ。
「なんか用か?」
「まず、この間のバーベキューはありがとうな。お前がいてくれたおかげで火起こしも楽にできたし、楽しかったよ」
「ああ、あれくらいは別に気にしないでくれ。俺も楽しかったし」
「それで、あの時なんだけどな。お前の火の起こし方が不思議で。お前は魔法だ、なんて言ってたけど、実際にどうやって
火を起こしたか知りたいんだ。今後の参考になるかもしれないし」
「なんだよ、それは今後は俺をバーベキューに呼ばないってことか?」
「いや、そうじゃなくて」
こんな軽口を叩きながらも、どうしようかと考えていた。魔法のことを話すことは悪いことではない。だがそんな話をして、
賢人は信じてくれるだろうか。信じてくれないのであればそれまでではあるのだが、その時の賢人から見た俺はただの変人に
なってしまう。適当に誤魔化せないかと考えたが、良い回答が思い浮かばなかった。そのことに焦った俺はつい言ってしまった。
「あれは、魔法屋で魔法を買ったんだよ」
俺がそう言うと、賢人は吹き出した。そして一通り笑った後に呼吸を落ち着けて、俺の方を向いた。
「魔法を買った?大丈夫か?」
このリアクションは正しいだろう。22歳にもなって、魔法を買ったなんて言ったらおかしな人だと思われることはわかっていた。
だが、事実なのだから仕方がない。
「賢人のリアクションもわかる。だけど、事実なんだよ。夢みたいな話なんだけど、本当なんだ」
俺が真面目な顔でそう言うと、ふざけていたわけではないと思ったのか、賢人が真顔になった。
「本当なのか?そもそも、魔法屋なんてどこにあるんだ?怪しいネット通販とかじゃないよな?」
「魔法屋は、ここからすぐ近くにあるよ。なんなら、行ってみるか?」
「ああ、ぜひ行ってみたい!」
別に俺だけの魔法屋であってほしいという思いもないので、二人で魔法屋のある場所へ向かった。そして魔法屋があるはずの
場所へ行くと、そこには何もなかった。
「あれ?」
「どうしたんだ?」
「いや、ここに魔法屋があるはずなんだが・・・」
辺りを見回してみても、それらしき店は見当たらなかった。
「本当にあるのか?まさか、ここまで手の込んだ嘘なのか?」
「本当にあるんだって!バーベキューで俺が何も持っていないのに火を起こせるのだっておかしいだろ?」
「それも全部がマジックみたいなもんなんじゃないか?あ、マジック、つまりは魔法ってことか?」
「そうじゃなくて・・・!」
こんなやり取りをしたが、魔法屋が見つからないのでは証明ができない。
「魔法ってものがあるのは本当なんだ。信じられないかもしれないけど、本当なんだよ」
「わかったわかった。じゃ、また今度見せてくれよな」
どれだけ話しても、現在魔法が使えない俺には証明のしようがない。それに、魔法屋がなくなった今じゃ新たに魔法を仕入れる
こともできないと思いながら、家に帰った。それから、家に帰って魔法屋のことを調べた。だが、どれだけ調べても魔法屋の話を
している人はいなかった。やはり、夢だったのだろうか。夢にしてはできすぎているし、もしも夢なのだとしたら庭にある花は
なぜあるのか、の説明ができない。これ以上考えても仕方がない、と思いその日は眠りについた。そして次の日、
魔法屋は本当にないのかと思い、魔法屋のあった場所へ向かった。すると、いつもの不思議な建物があった。魔法屋だ。
恐る恐る入ってみると、いつもの老人がいた。
「いらっしゃい」
いつも見る風景がここにあることに、俺は驚いた。
「この間、お店がなかったんですが」
「いえ、ずっとここで営業しておりましたよ?」
不思議なことを言う。場所を間違えただろうか。一人で何回も足を運んだ場所なのだから、賢人と一緒に来たところで間違える
はずがない。
「おかしいな。この間はなかったのですが」
「もしかして、魔法に適性のない方と一緒にいましたか?」
質問の意図がわからなかった。どういうことだろうか。
「どういうことです?」
「この店は、魔法が使える人にしか見えないようになっています。魔法が使えない人にこの店を見せても仕方がありませんから。
そして、使える人と使えない人がペアで来た場合、この店は見えなくなります。不公平感をなくすためですね」
色々と言っているが、理解ができなかった。そもそも、魔法は誰にでも使えるものではないのだろうか。
「魔法って、使える人と使えない人がいるんですか?」
「はい。魔法については天性の才能のようなもので、使える人と使えない人ではっきりと分かれます。あなたのような人が
来ることが珍しいので、あなたのことを覚えていたのですよ」
ようやく、意味がわかってきた。魔法が使える人と使えない人がいるので、この店にたくさんの人は来ないと言うことなのだろう。
どうして魔法が使えるのか、ということについては天性のものだと言っているので、これ以上は聞けない。
「でも、魔法自体は魔法が使えない人にも見えるんですよね?」
「はい、見えます。が、もしも魔法を使った時にどういった説明をされているかまでは、わかりません。あくまでもうちは、
魔法を売っているお店ですので」
なんとも無責任なことを言う。だが、ここで少し考えた。もしも魔法なんてものが世の中にあったら、注目されるのは
当たり前だろう。魔法が使える人間は多くはないようだが、それでも一定数はいるはずだ。それなのに魔法の存在が騒がれない
理由は別にあるのではないか。ここまでで教えてもらった魔法は、大したことには使えない。そして、あまりに強すぎる魔法は
そもそも誰も見れないのだろう。だとしたら、魔法が広まることはない。もしかしたら、今まで俺たちが自然現象だと思っていた
出来事も、魔法なのかもしれない。そんなことを考えていると、魔法は使うべきではないのではないか、と思った。
そもそも、いい使い道が思いつかない。
「わかりました、ありがとうございました」
もうここに来ることはないだろうと思いながら俺がそう言うと、老人はにっこりと笑いながら一言。
「はい、またどうぞ」
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