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この頃には、皆受験で頭がいっぱいだったからか、私へのいじめはぱったりとその鳴りを潜めていた。
嘘みたいに平穏な毎日。
けれど、いじめが無くなっても、私は変わらず毎日ヤマと会っていた。
手紙や電話で待ち合わせをしている訳ではない。
ただ、私が『逢いたい』と思うと、何故だか不意に、彼の方から逢いに来てくれるのだ。
この上なく幸せで楽しい時間を、私達は過ごしていた。
ただ、少し気になったのは、学校で1度も彼の姿を見たことがないこと。
けれど、それを尋ねてみると、ヤマはいつもの様に笑いながらこう言った。
「事情があって、少し遠くの学校に通ってるんだ」
と。
事実、その通りの様でーー彼は、私の知らない遠くの町のことをよく知っていた。
そうして、知らない町の話を、よく私に聞かせてくれた。
私にとって、ヤマの話を聞く時間は、掛け替えのない宝物の様な時間だった。
けれど、その時の私は知らなかった。
過去の自分の幼稚な行いのせいで、その全てを失うことになるなんて。
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