214人が本棚に入れています
本棚に追加
「オイディプス王の戯曲に依拠するというこの説は、人間は、無意識に、異性の親の愛情を得ようとするこころの動きと、同性の親に嫉妬するという感情を解明したものです。人間は、乳幼児期から性衝動を持つ。この理論はまだ、いまを生きる人間にとっても受け入れががたいものでしょうね」
ここでチャイムが鳴る。わたしは、今日の講義はここまで、と告げて、後ろの黒板に書き連ねた文字を消す。――と。
「……あら、ありがとう」
見れば、手伝ってくれる学生がいた。男の子だ。素朴な感じで可愛い。――が。そういった感情は出すまいと決めている。教鞭をとる人間の使命である。彼は、てきぱきと、黒板に残っていた全部の文字を消すと、
「おれ。栗沢先生のこと、好きです」
周囲の目線を集めるのもいとわず、堂々と宣言して見せた。
* * *
「聞いたよー鏡あんた、学生に告られたってぇー?」
カフェテリアでぼっちランチをしていると早速同僚の麗奈に声をかけられた。彼女も、ここ、M大学に勤務している。
最初のコメントを投稿しよう!