#01.怪物

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「オイディプス王の戯曲に依拠するというこの説は、人間は、無意識に、異性の親の愛情を得ようとするこころの動きと、同性の親に嫉妬するという感情を解明したものです。人間は、乳幼児期から性衝動を持つ。この理論はまだ、いまを生きる人間にとっても受け入れががたいものでしょうね」  ここでチャイムが鳴る。わたしは、今日の講義はここまで、と告げて、後ろの黒板に書き連ねた文字を消す。――と。 「……あら、ありがとう」  見れば、手伝ってくれる学生がいた。男の子だ。素朴な感じで可愛い。――が。そういった感情は出すまいと決めている。教鞭をとる人間の使命である。彼は、てきぱきと、黒板に残っていた全部の文字を消すと、 「おれ。栗沢(くりさわ)先生のこと、好きです」  周囲の目線を集めるのもいとわず、堂々と宣言して見せた。  * * * 「聞いたよー鏡あんた、学生に告られたってぇー?」  カフェテリアでぼっちランチをしていると早速同僚の麗奈(れな)に声をかけられた。彼女も、ここ、M大学に勤務している。
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