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それはつまり、確実に運命を断ち切ることは出来ないということなのだろうか?
そんな絶望の思いが顔に出たのか、医師は言葉を続ける。
「けれど、それはあくまでも可能性の話なのです。先程から言っているように、症例があまりに少ないのです。だから、絶対に出来ないとも言えないのです」
要はやってみないと分からないということらしい。だけどもし、この子と番になったとして、それでも運命の番との繋がりも切れなかったとしたら?僕はこの子の一生をダメにしてしまうことになる。
高校生にとって学校の先生への恋心など、よくある話だ。ましてや思い破れて失恋したとしても、この子にはまだまだ長い人生がある。これから大学生になって社会人になって、きっと多くの人と出会うことだろう。そんな中で、再び誰かと恋に落ちて思いを遂げることもできるはずだ。
そう思った僕の手を、隣のこの子の手が握る。
「もし、僕と番になれたとして、先生は僕のそばにいることで苦しんだりしますか?」
僕の手をぎゅっと握って、今まで黙っていたその子が医師に質問する。その内容に、僕はドキリとした。
知っていた・・・?
僕の心がこの子を求めても、本能はこの子を拒絶する。
どんなにこの子を愛おしく思い、その身に触れて抱きしめたいと思っても、僕の手も身体もそれを拒否してしまう。そばにいることすら苦痛に襲われる。
本能が叫ぶんだ。
このオメガではないと。
それでも僕は愛しいこの子のそばにいたい。これからもずっと一緒に過ごしたい。だから少しでもそれができる可能性があるならと、今も一緒にいてもらっているいるのに、その間ですら僕の身体はこの子を拒絶する。
医師への話でもそのことを言わなかったのに、この子は気づいていたんだ。
「運命の番でない僕がそばにいると、先生は辛くなってしまいます。でももし、僕と番になることが出来たなら、たとえ運命の番との繋がりが切れなかったとしても、僕がそばにいても苦しくなったりしなくなりますか?」
涙をぽろぽろ流しながら、それでも僕の手を握る手の力を緩めずにそう問うそのこの子の思いが、僕にも届く。
僕だって、本当は諦めたくない。
僕の隣にいるのはこの子がいい。この子でしかない。
この子の必死の覚悟が、僕の腹も括らせる。
「番になるということは、アルファとオメガが深く繋がるということです。それは自分の一部になることを意味します。いくら本能が違うと判断した相手でも、自分の一部を拒絶するということはないと、私は思います」
その医師の言葉に、今まで辛い顔しかしていなかったその子の顔が少し綻ぶ。
「先生・・・」
その子が僕を見る。
もう涙は止まっていた。
「僕を番にして」
まだ涙で濡れているその目を細め、その子はふわりと笑う。その笑顔は今まで見たどの笑顔よりもキレイだった。
「こんな僕のそばに、君はいてくれるの?」
問題は何も解決していない。
運命から逃れることが出来るかも分からない。
だけど僕は、この子のそばにいたい。
これから長い人生をこの子と共に過ごしたい。
僕も覚悟を決める。
どんな事があっても、この子を幸せにする。
そんな僕に、その子はそのキレイな笑顔のまま頷いた。
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