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恐る恐る振り返ると、不機嫌を煮詰めてジャムにしたような表情があった。
「……も、申し訳ございませんっ」
とりあえず意味もなく謝ってしまう。
ミハイエルは先ほどまでエリファスの座っていた椅子に、どさりと腰を下ろした。長い脚を組み、胸の前で両腕を組んでふんぞり返る。
「で?」
「あ、あ、あのう……で、と申します……と?」
「俺に訊きたいことがあるんだろ。言ってみろ」
尊大極まりない態度で言ってみろ、と言われましても。
「は、はい、で、でも、あの――」
「遠慮する必要があるのか。エリファスの奴が言ったことを聞いたんだろ。俺はおまえに逆らえない。訊きたいことがあるなら『言え』と命じればいいだけだ」
ふて腐れた口調に表情だった。
奏はどうしたものかとその顔をながめていたが、思いきって口を開いた。
「えっと、め、命令とかじゃなく、も、もしよかったら教えていただけたらなーって……」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと言え」
「は、はいっ、あ、あの――」
「お茶」
「えっ」
ミハイエルの目はエリファスが使っていたマグカップへ向いている。
「エリファスにはお茶を出して、俺には出せないのか?」
「はっ、はい! たっ、ただいまお持ちいたしますっ!」
奏は慌ててガスコンロの前にすっ飛んでいった。
ほうじ茶のマグカップをミハイエルの前へそろそろとおく。ミハイエルはひと口飲むと、奏を冷ややかな目で一瞥した。
「で?」
「あ、あのですね、お、お、王子は人間を、お、お嫌いみたいなので、な、なにか理由があるのかなーとか、お、思ったりして、エ、エリファスさんに訊いてみたんですが……」
奏はミハイエルをちらりとながめた。この人に――人ではないが、この魔族というのもしっくりこないので人で通すことにする――流れる血の半分は人間のものなのか。
魔族といっても見た目は人間と変わりない。耳が尖っていたり、目が三つあったり、角が生えていたりということもない。常人離れして美しいだけで。
「あいつの言っていた通り、俺の母親は人間だ。文句があるのか」
「えっ? い、いや、も、文句とかじゃなく……。あ、あの……お、お母さんが人間なのに、ど、どうして人間がお嫌いなんですか? あっ、あの、答えたくないならいいんです! たっ、ただちょっと気になっただけなので。おっ、おかしなことを訊いたりして、すっ、すみません!」
ミハイエルは面白くなさそうな顔で奏をながめていたが、テーブルに頬杖をつくと口を開いた。
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