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 清々しい汗の粒が至る毛穴から止め処なく流れ出ていく。 方々にできた水溜まりを見る度に努力を実感できる。 続いてダンベルフライに移ろうと専用ベンチに腰を下ろすと、 横にパル美がちょこんと行儀よく座っていた。 彼女は生後6ヶ月のアメリカンショートヘア。 今年の春に始まった社会人生活を機に選んだ子である。 鼠色を基調とした毛皮に、黒筋が縦に幾本と刻まれている。 確固たる芯と柔軟性を兼ね備えた髭も、 大気の囁きすら聞こえてしまいそうな耳も全てが可愛らしい。 「こんなとこで寝ちゃダメだよ。ソファの方に行ってな」 パル美は言いつけに構わず、トレーニング器具周辺を練り歩くばかり。 中でも特にダンベルに興味があるようで、 非力な身体で一生懸命に転がそうとしている。 そんな健気な姿にも猫好きな俺はうっとりするのだが。 「ほら、パル美も持ってみるかい? 重いだろ?」 俺の手元で、彼女はダンベルに手を掛けて踏ん張る。持てるわけはないのにさ。 「……ジム行かなきゃだよなぁ」 パル美に魅了された心の僅かな隙間から、図らずも本音が漏れた。 肉体を更なるステージへ引き上げるには、やはりプロの力を借りる必要がある。 新卒の収入はそこまで多くなく、節約がてら自宅でトレーニングに励んでいたが、 近頃はそれにも限界を感じ始めていた。  いつの間にかパル美が足元に擦り寄ってきた。 (みどり)の奥に眠るつぶらな瞳が俺を必死に引き留めようとする。 実は寂しがり屋なのだろうか、 家に取り残されてしまう危機を本能的に感じ取ったに違いない。 幼気な頭を上から撫でて安心を促し、 俺は飲みかけのプロテインを一思いに流し込んだ。
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