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 あれから3ヶ月経った秋日もなお、結局ジムには通っていない。 しかしながら、自らを律し、過酷なトレーニングを乗り越えたつもりではある。 麗しい首筋に、分かりやすく角張った鎖骨周り。 肩から腰に及び程良く引き締まった脇腹。 太腿は上半身を支える礎を全うするに十分な太さを誇り、 滑らかな脛に沿えば、足が大地に逞しく根を張る。 夢にまで見た肉体をとうとう手に入れた。ただし、俺ではなく、パル美がだ。 連れ立って同じトレーニングメニューを消化していくうちに、 むしろ彼女の方が著しい成長を遂げたようで、 終いには二足歩行をも習得していた。  強化効率の優れたパル美に柄にもなく嫉妬した俺は、 この日限りで筋トレをパタリと止めてしまった。 まだ究極の肉体を手にしてはいないのに。 そして、久々に恋人を作った。相手は会社の同僚。俗に言う社内恋愛だ。 彼女は筋肉質な人が好きらしく、日々の努力がようやく報われた形である。 これまでトレーニングに費やしてきた時間を取り戻したい。 その一心で恋に燃えた結果、当然パル美の世話はおろそかになった。 連日家を空けることも珍しくなくなり、ろくに構ってやれなかった。 当時のパル美の気持ちを想うと全く居た堪れない。
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