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14 動き出した捜査線⑤
避難は順調。
今の所これといった騒ぎやパニックも無く住んでいる。ここからだ。
そんな事を考えていると、ポケットの携帯が鳴った。水越さんからだ。
「はい黒野です」
「避難は“順調そうだな”黒野」
順調そう……って。
言葉の意味を理解した俺は自然と上を見渡していた。
「違う違う。そっちじゃなくて反対のカメラだ。そうそれ」
やっぱり。水越さんもうホテルの監視カメラにアクセスしてやがる。
「ソサエティは見つかりましたか?」
「いや。まだホテルのセキュリティには入り込んでいない。そのうち来るだろうな」
「逃げ遅れてる人はいないですかね?」
「ああ。問題ない。後はお前がいる階とその上だな。落ち着いて避難しているよ皆」
良かった。取り敢えず一安心だ。全然気は抜けないけど。それに、奴らの事だから絶対俺達を監視している筈だ。いつ来ても可笑しくない。
「また何かあったら直ぐに連絡お願いします」
「了解。さっき黄瀬君とも連絡取ったからこっちは何時でも準備OK。こそこそ隠れてる連中を引きずり出してやるよ」
普段はパソコンばっかいじって不気味だけど、こういう時には誰よりも頼りになる。水越さんとシンなら絶対に奴らの居場所を突き止めてくれる筈だ。サーバーだのハッキングだの俺には全く分からん。前に2人の会話を聞いた事あるけど、まるで何を言ってるのか理解出来なかったからな。宇宙人と交信してる様なものだぜ。俺からしたら。
「任せました。俺は引き続き避難させます。それと、建物の中には必要最低限の人数の警官だけと再度伝えといてください」
「大丈夫だ。その辺は藍沢が仕切ってる。報告書と一緒でそういう所細かいからなアイツ。それに、役に立ってるか分からないが、灰谷さんもセントラルタワーに向かってる。お前も十分警戒しろ黒野。絶対出てくるぞあいつら」
「了解です」
何だかんだで頼りになる先輩達なんだよな。普段はとてもそう思えないから忘れてるけど。しかし、この状況でも毒吐かれる灰谷さん。やっぱりちょっと可哀想。個人的な恨みでもあるのかな水越さん……。これ無事に終わったら聞いてみよ。
そんなくだらない事を考えられる俺はまだ余裕があるみたい。
多少の余裕も確かに大事だが、今からはもっと気を気を引き締めろ。6年越しに奴らを捕まえるチャンスなんだ。一瞬たりとも気を抜くな。絶対に奴らを捕まえろ。
シティホテルの最上階に着いた俺は、そこにいた人達を急いで避難させた。
「皆さん慌てないで! ですがなるべく迅速に避難をお願いします!」
ここだ。
ソサエティの奴らが見ているなら、前と同じ犯行ならば、動き出すタイミングはここ。
今のうちに1人でも多く避ッ……『──ビビッー! ビビッー! ビビッー!ビビッー!……ガチャン!』
来た――。
「あれ? エレベーター反応しないぞ」
「お巡りさん、何があったんですか?」
「皆さんちょっと待ってて下さい!」
エレベーターは動かない。
今登ってきた非常階段も扉の鍵が閉められた。仮にここが開いたとしても下の階が閉まってるだろうな。
部屋にはそれぞれ窓が付いているが、この高さじゃ自力でなんて到底無理。こういう建物には非常用の脱出スロープみたいなのがあるが恐らく……「おい何だこれ。 何か“画面に映ったぞ ”」
全く同じパターン。
でもここはビジネスホテルだ。前はビルに会社が入っていたからパソコンが幾つもあったが、普通のホテルのフロアにハッキング出来るようなパソコンなんて――。
エレベーターの前で立ち往生している皆の所に戻ると、その視線の先はエレベーターではなく反対側の壁。一畳程のテーブルの上に、植物や花やホテルの案内等が置かれていた。
そしてその中でも真っ先に目に留まる1台のモニター画面。
「出たなソサエティ……」
まるでデジャヴを見ているかの様。
ある意味デジャヴよりハッキリしている。ここまでそっくり犯行を繰り返すとはな。
きっとこのパソコンの画面は、普段はフロアマップやらホテルの情報やらが流れているんじゃないだろうか。奴らはこんなパソコン1台まで把握しているって事か。敵ながら天晴れだぜ。
すると突如、静止していた画面が動き出した。
『市民を守る警察の諸君。早速市民を避難させているみたいだな。心なしか6年前より出だしの対応が早いか? 流石警察諸君、以前の“失態”を学んでいる様だ。偉い偉い。
如何なる状況に置かれても最後の最後まで市民を守り切るのが警察の役目。
久しぶりにゲームを始めようじゃないか。ルールは前回と同様。この映像を見ている警察と選ばれし市民達よ、たった今、爆弾を仕掛けてある猪鹿町シティホテルと獅子ヶ町セントラルタワーを封鎖させてもらった。
ルールは簡単。取り残された警察と市民達、生き延びたくば爆弾を解除する事だ。そうすれば鍵が開き逃げる事が出来るぞ。
そこに取り残された幸運な市民達よ。お前達は今から命を賭けた最高のゲームを体感することが出来る選ばれし人間だ。喜ぶがいい。しかもお前達は何もする必要はない。そこにいる正義の警察に己の命をただただ預けるだけだ。
市民を守るのが警察の務め。その正義の力で市民を守り切ってみせるのだ警察よ。
この事を覚えている者達ならば理解していると思うが、我々ソサエティは建物及びその周辺を監視をしている。
お前達警察が市民を助けようと外から建物に近づこうものならば、その時点で爆弾を起動させる。中にいる者達が外へ逃げようとしても当然結果は同じ。
状況を理解している警察諸君ならば、これが脅しや悪戯でない事は分かっているであろう。
さぁ、ゲームの始まりだ!
先ずは仕掛けた爆弾の位置を教えよう。そして見事爆弾を解除して逃げ切ってみせよ。一体どちらが早く逃げられるかな? 久しぶりに楽しませてくれよ。ゲーム参加者の諸君。健闘を祈ろう。ハァァァハッハッハッハッハッ!!』
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