18 動き出した捜査線・最終ゲーム①

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18 動き出した捜査線・最終ゲーム①

 一真……。  碧木の話に、俺は自然と一真の事を思い出していた。    警察学校で出会った時から最後を見送るまで――。  今思い返してもつい昨日の事の様に思える。  あの時、お前に黒のコードか白のコードか聞かれた俺は、いつもの直感で黒だと思ったんだ。黒を切ればお前が助かると思って。  なのに、「分かった」とか言いながら、お前は“白のコード”を切ってたな。  もし一真が生きていたら笑いながら言われそうだ。   「お前の考えていた事なんてお見通しだっつうの」  ズルいだろ。俺に聞いときながらお前はよ……。  俺が黒を切れって言ったのは、お前だけでも助けたいと思ったから。だけどお前の方が一枚上手だったよ。それを見越して俺の直感に頼った挙句、黒じゃなくて白のコードを切ったんだからな。  こんな事言ったらアレだけど、もしそれで結果が逆だったらお前はどうしてたんだよ?  その答えは簡単。  一真、お前の事だからきっと責任感じて自分を責めまくるだろうな。そして下手すりゃ抜け殻のまま警察を辞めちまう。お前は優しくて意外と繊細だからな。責任感も人一倍強いし、周りを見る冷静さもある。  勘違いはしないでほしい。俺だって未だに自分を責めているし、どうしようもない虚無感にも襲われてる。最後にお前が、奴らを捕まえてくれなんて言わなければとっくに辞めていたかもしれない。だが、そこはお前と違って、俺のムキになる性格が功を奏したのかも知れないな。皮肉にも、ソサエティの存在が俺の背中を押した。  奴らを捕まえて、俺の大嫌いな報告書をお前の墓に備えてやるよ。  その時は報告書が大好きになっているなきっと。何て言ったって、そこにはソサエティを捕まえた事実を記しているからな――。  待ってろよ一真。   「――よし。それじゃあそろそろ解除を再開しようか。準備はいいかい? 黒野君、碧木刑事」  一気に色んな事を思い返してた。そして山本さんの声でハッと現実に引き戻された。  人は死が近くなると浸りやすいのだろうか。  縁起でもない事を考える前に、目の前の事に集中しろ。 「俺は何時でも大丈夫です」 「私もです」 「分かった。それじゃあ始めよう。もう直ぐ終わりだ。集中していこう」  俺達は再び道具を手にし、山本さんの指示の元、解除を進めていった。  そして5分後――。 「――次が最後だ。残った赤のコードを切ってくれ。それで“一旦”終わりの筈だ」  山本さんにそう言われ、俺と碧木は残る赤のコードを切った。  ――パチン……。 「……止まった」  最後のコードを切り、俺の前にある爆弾のカウントダウンが止まった。  という事は……。 「赤のコードを切りましたが……まだカウントダウンが止まりません──」  電話からそう碧木の声がしてきた。  チッ。やっぱりそうなったか。  こっちがそうなる事を祈っていたんだがダメだったか。クソ。俺がセントラルタワーに行っていれば……。 「やはりそうきたかソサエティ。大丈夫、まだ時間に余裕はある。碧木刑事! 慎重に爆弾を確認してみてくれ。どこか開きそうな場所はないか?」 「確認してみます」  ――ビビッー!ビビッー!ビビッー!ビビッー!ビビッー!  また警報音が鳴り響いた。  来たか。  ここが正念場だぞ。シン達はまだ奴らの居場所を特定出来ないか……? 「また奴らだ。動画が流れる。碧木刑事は焦らず爆弾の確認を続けて。動画の後にパニックが起きない様、黒野君は一旦皆の所に戻った方がいいだろう。そこにいる鈴木巡査にもこちらから今直ぐ連絡を入れる」  その数秒後、動画が流れ始めた。 『――勇敢なる正義の警察諸君。そして、選ばれし市民達よ。今回もどうやら警察が爆弾の解除に成功した様だな。 まぁここで爆破を起こされても盛り上がりに欠ける。 と言っても、久々のゲームはやはり面白い。非常に楽しませてもらっている。だからこそ、ここから最後にもう一賑わいと行こうか皆の者。 最終ゲームのルールもやはり6年前と同じ。 シティホテルもセントラルタワーも、ただ爆弾を解除しただけでは終わらない。 今回はセントラルタワー。そちらには最後、黒と白のコードが残っている。そのどちらかを切れば爆弾は解除だ。 但し、それは勿論どちらか一方。 黒か白のコードを切れば確実にどちらかは爆破する。セントラルタワーにいる女刑事よ。貴様の手に人質達の命が懸かっている。どちらを殺してどちらが生き残るか貴様が選べ。 今回は大分優秀だな。と違って残り時間が20分近くもあるじゃないか。 良かったな。楽しめる時間がそれだけ長い。まぁ精々最後まで楽しませてくれ。 ハァァァハッハッハッハッ!!』  動画はそこで終わった。  人が人を殺す時の状況は、恐らく突発的な感情か蓄積された憎悪。  俺は今間違いなくその2つの感情がぐちゃぐちゃに混ざっている。目の前にいたら必ず殺しているだろう。何の迷いもなくただ奴らに銃を向けて――。  そんな事をしても勿論何の意味もない。恨みや憎しみはまたそれを繰り返すだけ。最も無意味な行為の繰り返しだ。それを分かっていながらも、人はその感情を消化出来なかった時に罪が起きてしまう。  人を殺す事に正当な理由も動機もあってはならない。  仮に起こった事件全てに理由があったとしても、それは到底俺には理解出来ない。  そう思っていた。  どんな理由が動機があろうと、命を奪う権利は誰にもないのだから。  頭ではしっかり分かっているよそんな事。  でも、それと同時に今だけは“こう”も思う。    そんなのは綺麗事。      俺の手で奴らを捕まえて確実に息の根を止めてやる――。
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