怪奇!おしゃべりな秋の虫

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怪奇!おしゃべりな秋の虫

「これは私が体験した出来事です」 (某市在住・Kさん) それは9月も半ばのことでした 近年の暑さで熱帯夜が続いていました 夕方に降った雨も 熱気を払ってくれるわけではありません かえってムッとし 呼吸をするのも辛いという湿度でした 私の部屋にはエアコンがありません そのため 夏の間はリビングの隅の畳に布団を敷いて眠っていました その日も猫ちゃんと遊び 少しゲームをしてからお布団に転がりました 寝つきの良さには定評のある私です いつものように すぐに心地よい眠りに落ちていくはずでした しかし その日は違いました お布団に入って二秒後くらいに 何かに気付いたのです 「チッチッ……チッ♪」 秋の虫の鳴き声です 窓の外に置いてある植木鉢からでしょうか 鈴虫かな コオロギかな 松虫かな 秋の虫の名はそれ以上思いつきませんが なんだか風流です ああ 暑い日が続くけれど 季節は秋に向かっているんだなと その時は心がほんわか安らいだのです 何かが違うと気付いたのは その数秒後のことでした やけに近いのです 窓の外の植木鉢で鳴く虫の声…ではない 室内から聞こえている? しかもすぐ近くから! 外なら風流でも 家の中にいるとなると話は違います 申し訳ないけど出て行ってもらおうと 近くにあった冊子を手に立ち上がりました 「どこにいるんだ?」 虫に向かって尋ねた…というわけではありません これはお得意の独り言です(年齢とともに独り言が増えていくのです) しかしその時 声が聞こえたのです 「ひゅーっ ひゅーっ」 虫ではない! これは明らかに人の声! しかもすぐ近くから! 「どこだっ!?」 冊子を握りしめ凄んでみても もう返事はありません 私は部屋中を探しました 人語をしゃべる虫がいたら すごいことだと思ったのです ぜひ捕ま…じゃなくて 保護して動画に撮りたい! 実録ホラーを書いてらっしゃるお友だちの作家さんに見せるんだ! もしかしたらネタにしてくれるかもしれない そんな欲望がメラメラと燃え上がります いつかものすごいホラー体験をして ネタにしてもらうのが夢だったのです 布団をめくり 物を動かし 嬉々として部屋中ひっくり返しました でも秋の虫は見つかりません あの声ももう聞こえてはきませんでした 「チックショー!」と思いました
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