わがままを君に捧ぐ

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 高校で推薦して貰った企業に就職すると同時に私は家を出た。姉が大学くらい行きなさいよと言ってきたが、毎日夜遅くまで遊び回っている姉の言葉は戯言にしか聴こえなかった。私は事務職をする傍ら、図書館で画集や美術書など読み漁っていた。ここは如何なる邪魔も雑音も聴こえない、まるで天国のような場所だった。時間も忘れ、いつも閉館間際まで絵画の世界に浸っていた。 「すみません。まもなく閉館の時間です」 「えっ! もうこんな時間。いつもすみません」  慌てて書物を片付ける私に声をかけてきた司書の高野が「勉強熱心ですね」と微笑んだ。久しぶりに人に褒められて、どう反応すれば良いか分からなかった。 「いえ」  少し無愛想な返事だったかもしれないと、帰り道に何度もそのやり取りを思い出してため息をついた。きっと高野は私の返答など気にもとめてないだろう。それでも次の日に図書館に行くのは躊躇われた。入り口でぼやっとしていたら、中から高野が駆け足でやって来た。 「どうしました? 具合でも••••••ああ、千賀さんだったんですね。予約本が届いてますよ」  屈託なく笑う高野につられて館内に入る。 「あの、昨日はーー」
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