わがままを君に捧ぐ

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「はい? あっ、もう少し早く声をかけていたら、慌てさせずにすみましたよね。すみません」 「いえ、そうではなく。私こそうまく話せなくてすみません」  きょとんとした高野は、「全然気にしてません。むしろ、もっと読ませてあげたいな、なんて」 「えっ」 「持ち出し禁止の図版は足を運んで貰うしか無いんですけどーー僕が持っている美術書なら今度お貸ししますよ」  高野のことを気になっていた私は、夢心地でこくんと頷いた。  それから何度か美術書を借りたり、誘われて一緒に絵画展へ行くようになった。呼び名が高野さんから翔真さんに変わってから、両親を紹介したいと言い出されるまでそんなに時間がかからなかった。翔真の両親は穏和な人達で、私を温かく迎えてくれた。それでも、家族の話になるとぎこちなくなる私に曖昧な笑みを浮かべていた。翔真には姉と不仲で、実家に帰っていないと話していたせいで、両親とも関係がうまく行ってないとは思ってないようだった。 「今度、七菜香のご両親にも会いたいな。いつなら、会えるかな?」 「ーーごめんなさい。家族には会いたくないの。子供の頃から姉の事があって、両親ともあまりうまくいってなくて」
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