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私ははじめて彼にわがままを言った。
「でも今は普通に話せるかもしれないじゃん。お姉さんだって、昔と同じじゃないかもしれないし」
翔真は家族は宝ものだと信じて疑わないひとだったから、当然の反応だと思う。
「ごめん。どうしたらいいか分かんなくなった」
「そうだよね。うん」
何度も話し合っても理解して貰えない苦しさから、彼からも図書館からも遠ざかってしまった。
私はまた家族に邪魔をされた。私のはじめてのわがままは不発に終わった。
近所の図書館に行けなくなってしまったので、一駅前の図書館に通うようになった。街の図書館より品揃えは少なかったが、美術書のコーナーが吹き抜けの下にあり、そこにあるベンチが特等席だった。
「今日はシャガールか、いいね」
「え、嘘。翔真さん、何で」
「探したよ。君のことだからどこかの図書館にいると思ったんだ」
「ーー何で? 私のこと理解できないって言ってたのに」
「ごめん!」
翔真は勢いよく頭を下げた。
「えっ」
「うちは家族が鬱陶しいくらい仲良くて、君にも家族になって欲しくてーー家族に会わせることが君を傷つけるなんて考えもしなかった」
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