わがままを君に捧ぐ

1/8
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 子供の頃から、三歳上の破天荒な姉が、母を困らせたり怒らせたりするのをずっと見てきた。 「七菜ちゃんは、お姉ちゃんみたいに好き嫌いなくてえらいねえ」  母はいつも姉を引き合いに出して褒めた。何の気無しに放った言葉だったかもしれないが、その言葉が姉と私を追い詰めることになった。  仕事で殆ど家にいない父に頼れなかった母は、精神的にも肉体的にも疲弊していたのだと思う。母がトイレに籠って泣いているのを、トイレの前で黙って待つこともあった。トイレに行きたいと言えなくて、我慢できずにおもらししたのを姉はゲラゲラと笑って、また母に怒られていた。そんな姉は理由はどうであれ母を独り占めしていたことに優越感を抱いていたようだった。  色々な習い事をしても長続きしなかった姉が、小学六年生から通い始めた書道教室は居心地が良かったようで、別人のような落ち着きを見せ始めた。母はようやく一安心だった。やっと母が私に関心が向いた頃には、わがままを言えない子供になっていた。母にとっては扱いやすい良い子だったと思うが、あまり褒められた記憶もない。悪いこともしなければ、特別優秀でも無かった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!