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「ごめんね。お兄ちゃん」  弟はまだすこし苦しそうな息づかいで僕に言った。 「なんであやまるんだよ」 「だって、僕のせいでいっぱいがまんしてるでしょ? めいわくかけてるでしょ?」  胸の奥がちくりと痛む。 「いいんだよ。そんなの」  こんなありきたりなことしか言えない自分がくやしい。 「じゃあ行ってくるな」  あたたかそうな布団にくるまっている弟の頭をそっとなでて、静かに部屋を出た。  あの夜は、節分の日に保育園で鬼に追いかけられたときより、遊園地で初めてジェットコースターに乗ったときより、ずっとずっと怖かった。 「ねえ、どうしたの? 苦しいの?」  どれだけ問いかけても、弟は返事ひとつしてくれない。返ってくるのは、のどもとから聞こえてくるおかしな音と、つらそうにせき込む声だけ。  ふるえる手をかたくにぎりしめて長いろうかをすべるように走り、いそいで母さんと父さんを呼びに行った。  どうしてそばにいてくれなかったんだ。  リビングの明かりとふたりの笑い声に、どうしようもなく腹が立ったのを覚えている。  僕らを寝かしつけた後はいつもそうしていたのに。今に始まったことじゃないのに。
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