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🍀🍀
「ごめんね。お兄ちゃん」
弟はまだすこし苦しそうな息づかいで僕に言った。
「なんであやまるんだよ」
「だって、僕のせいでいっぱいがまんしてるでしょ? めいわくかけてるでしょ?」
胸の奥がちくりと痛む。
「いいんだよ。そんなの」
こんなありきたりなことしか言えない自分がくやしい。
「じゃあ行ってくるな」
あたたかそうな布団にくるまっている弟の頭をそっとなでて、静かに部屋を出た。
あの夜は、節分の日に保育園で鬼に追いかけられたときより、遊園地で初めてジェットコースターに乗ったときより、ずっとずっと怖かった。
「ねえ、どうしたの? 苦しいの?」
どれだけ問いかけても、弟は返事ひとつしてくれない。返ってくるのは、のどもとから聞こえてくるおかしな音と、つらそうにせき込む声だけ。
ふるえる手をかたくにぎりしめて長いろうかをすべるように走り、いそいで母さんと父さんを呼びに行った。
どうしてそばにいてくれなかったんだ。
リビングの明かりとふたりの笑い声に、どうしようもなく腹が立ったのを覚えている。
僕らを寝かしつけた後はいつもそうしていたのに。今に始まったことじゃないのに。
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