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エント
「何もない街なのに賑わっているな」
「あそこの鉱山が有名なだけなんだけど」
マグナスが指を指す方向。
黒い山が聳え立っていた。
「この世の宝石は殆どあそこから取れている。俺の身につけているものも、エントのものが多い」
「へぇ…言われてみれば宝石店ばかりですね」
街の中を歩けば宝石や原石を売っている店が多かった。そしてマグナスとラスウェル、それにティナも高貴な存在に見えるのだろう。
声をかけられることが多くなかなか進めなかった。
「おい、マグナス!そのオーラを消せ」
「オーラ?なんだ?」
「目立ちすぎてる!せめてフード被れよ!」
マグナスの服を引っ張り頭からフードを無理矢理かぶせる。しかしマグナスはフードを振り払った。
「目立つように歩いてるんだ。じゃなきゃ寄ってくる奴がいるだろう」
「……それもそうだけど」
マグナスを知らない人は世界にいない。特に魔力に精通している人は必ず知っている。だから存在を示すことは大切だとマグナスは言った。
「あれはライデンのマグナス王子ではないのか?」
「今逃亡中だと。でも捜索も打ち切りだから逃亡ではないのか」
「あのお方には触れないようにせねば」
「心の優しい方だと聞いているが……子供たちには近づかぬように伝えよう」
歩くたびに聞こえてくるのは全てマグナスの話。無闇に近づく人を無くすためにも存在感は必要だと。
「9割は避けてくれるけど、1割は頭がおかしいやつがいるってことを忘れんなよ」
「あぁわかっている」
ティナは頭がおかしいやつ?と理解できずにぼんやりと二人の話を聞いていた。
そしてその頭がおかしいという意味がようやく分かった。
「マグナス王子!」
少し離れたところから走ってくる美しい女性。胸元のあいた服に花のような香りをまとわせて、艶々の髪を靡かせている。
マグナスは少しビクッとして距離を取った。その間にラスウェルが入る。
「おっと、マグナスに突っ込んでいかないでよ?お嬢さん。話があるなら離れて」
女性の伸ばした手はマグナスには届かなかった。
「マグナス王子」
「俺はもう王子ではない。ライデン王国は抜けているから」
王子という肩書きもそうだが、マグナスが人々を惹きつけるのは、その見た目だった。
美しいという言葉がぴったりで、その真紅の瞳に見つめられれば心臓が跳ねる。
でもとても冷たい目をしている。
「触れようとするな」
「私は!魔力が強い方です。一晩で構いません!!!」
そう縋ってくる女をラスウェルが苦笑いで抑えていた。ティナにもようやく女の言葉で何を意味するかがわかった。
とても魅力的な男なのはティナもわかっている。ただ、マグナスに近づくことができない人達は、その特別感に手を伸ばしているように見えた。
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