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手が届かないものほど欲しくなる。
そんな感覚は知っていたから。
その感情を向けられ続けたティナだから、一目見てわかった。
「一晩なんて死ぬよ?それに……マグナスは興味ないよ」
ラスウェルがそう言い切って女の身体を軽く押した。拒絶を見せる為に。
そのまま悔しそうに下を向いた。
ティナは後ろから二人の姿を見ることしか出来なかった。ラスウェルはホッとしたように肩の力が抜けていたが、マグナスはまだ肩に力が入っている。
マグナス一人が気をつけていても、近寄ってくる人はいるから……常に気を張らないといけないんだと痛感した。
遠くから眺めておくだけでいいのにね。とラスウェルが漏らした。
それを聞いてティナはドキンとした。
遠くから眺めておくだけで止まれない自分がいるからだ。
「いくぞ」
宿に向かう為にまた歩き出す。マグナスとラスウェルの背を追い歩みを進めたのに何かに引き止められて動けなくなる。
そして強く引っ張られてティナはバランスを崩した。
「きゃ」
「貴方は何?どうしてマグナス王子と一緒にいるの。どうしてさっき触れ合っていたの!!!!あんた誰よ!!」
どんどん語気が強くなり、突然だが責められていることがわかった。
ここに着く前にマグナスが調達してくれた服が、転んだ時に敗れてしまう。
「待って待って」
焦ってラスウェルが間に入るが、女はそんな事も気にしていない様子で再びティナに手を伸ばそうとする。
「誰1人側に置かなかったのに!」
「ねぇ、お願いだから声をおとして」
悲鳴にも近い声は、周りの人たちの注目を集めることになる。
マグナスの姿をみてライデンの王子かと呟く人も増えてしまった。
別に姿を隠している訳ではなかったが、好んで目立つつもりもなかった。
ティナは尻餅をついたまま唖然と浴びせられる言葉を聞くことしかできない。
初めて会った人にここまで感情をぶつけられて憎まれたことがなかったから。
同時に恐ろしくもなった。
関わっていないのに憎まれることに。
「ティナ」
マグナスはティナにそっと触れて身体を起こさせる。転んだ拍子で破れた服は、ティナの腰あたりまで破けていて、ティナは咄嗟に服を押さえた。
それに気づいてマグナスは自分の羽織をティナにふんわりと掛けた。
「ラスウェル、先に行く」
「はーいはい」
そっと優しく触れてティナを庇うように人混みを避けてマグナスは路地へと消えた。
その間もずっと、女の人の怒鳴り声が聞こえていた。
「はぁ。ほんとマグナスの事怒らせないでよ。アイツが優しいから何も被害がないだけなんだよ?勘弁してよ」
ラスウェルはため息を付いて悔しそうな顔をしてる女に近づいた。
「お前みたいな女、マグナスが相手するかよ」
とても冷たいその言葉は周りの空気も冷たくした。
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