悲しみの終わる場所

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 初めての給料で、花束を買った。  じいちゃんの好きそうな青い花シリーズ。花言葉なんてわからない。こだわってないので、適当に青でまとめてくださいとしか頼めなかった。  こんな微妙なオーダーにも、花屋さんはスマイルを崩さなかった。さすが。新社会人として、自分も見習いたい。  そして青の花束を手に、暮れかけた町をとことこ歩く。まだ革靴は痛いよ。じいちゃん。みんながみんな駅へと向かうのに、ぼくだけ逆走。みんなとは逆方向にのしのし歩く。  ふと頬に雪がふれた気がして立ち止まる。振り返って、出てきたばかりの駅を見た。正確には、改札の向こう。駅のホームへあがる階段を。  そういえば、子どものころ、じいちゃんに手を振ったのもこの場所だったな。  ばあちゃんのしわだらけの手を今も覚えている。手をつなぐたび、ばあちゃんの手のひらのささくれが痛くて、少し嫌だった。でもそれを言ったら傷つけることも子供心にわかっていたから、絶対に言わなかった。 「じいちゃん、いってらっしゃーい! またねー!」  じいちゃんは、夜勤で警備員をやっていたから、いつもばあちゃんと駅まで見送りに来ていた。その日は雪で、夜になっても道路は白くて、いつもよりはぼくもしゃいでいたと思う。 「危ないよ、たーくん。走ったら危ない!」  ばあちゃんに怒られながらも、じいちゃんに手を振った。じいちゃんはニコニコしながら手を振りかえしてくれた。    それが元気な時のじいちゃんの、最後の姿だった。  小高い丘の上にある霊園は、場所は知っていたけれど、ぼくが足を踏み入れたのは初めてだった。  白い息を吐きながら、たどり着いた墓石の前で足を止める。今にも沈みそうな太陽の赤い光が眩しくて、思わず瞳を細めた。  目の奥がじんわり熱くなる。久しぶりだ。こんな感覚は。  ずっとここに来たかった。  でも来れなかった。  ここに来たら、じいちゃんが亡くなったことを実感する気がして怖かった。いってらっしゃいと手を振ったあの日から、じいちゃんはまだ帰らない。仕事に行っているだけだと思いたかった。  うつむいたぼくの瞳に、青い花束が映りこむ。ぼくは苦く笑った。 「ごめんねじいちゃん、やっと、来たよ」
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