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スーツのポケットで、スマホが震える。ばあちゃんだ。あの人最近、スマホに変えてSNSも覚えたんだよ。すごいでしょ。
きっとじいちゃんは、生きていたら今でもガラケーのままだよね。
いつのまにか太陽は沈んで、あたりは真っ暗になっていた。暗闇の墓地で一人きり。
でも怖くはない。
だって一人ではないから。
ぼくはじいちゃんと一緒にいるんだから。
こんなふうに思えるならもっと、もっと早くこれればよかったね。
ぼくが頑固なせいで、淋しい思いをさせたかな。ごめんね。じいちゃん。本当にごめんね。
『今で、よかったんだよ』
『ありがとうな、拓海』
頭の中に響く声と、ぼくの頭を撫でる、ざらついたあの手のひらの感触。はっきりと聞こえた。じいちゃんの声。
じいちゃん……。
墓石が涙でにじむ。
とめどなく涙があふれる。止められない。いや、もう、とめなくていいんだ。
ありがとう。じいちゃん。
そうだね。これでよかったんだ。
取り戻せない過去を悔やんでもしょうがない。
今でよかったんだ。
大人になった今だから、ぼくは、こんなにも清々しい気持ちでここにいられるんだ。
「またくるね」
そう言って、優しく墓石を撫でた。
青い花が、応えるように風に揺れた。
さぁ、帰らなきゃ。
ばあちゃんの好きなモンブランも買わなくちゃ。
そしてぼくは力強く歩きだす。
ばあちゃんがご馳走を作って待っている、あの家に帰るために。
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