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我が家に初めて猫がやってきたのは、私が高校生の時だった。「ニャー、ニャー」とか細い鳴き声が聞こえる。玄関から外を覗くと、キジトラの痩せた猫がこちらに向かって歩いてくる。
「なあ、猫がこっちに向かってきてるんだけど」
父がやおら立ち上がり、箒を持って猫を追い払おうとする。それでも、猫は箒を擦り抜けて家の方へやってくる。よく見ると首輪をしていて、どこからか迷い込んだか、捨てられたかと思われた。
「ねえ、お腹が空いてるんじゃない。せめて、何か食べ物を食べさせてあげたら」
提案したのは妹だった。台所にある冷蔵庫を開けて見ると、封の開いた魚肉ソーセージがある。それを薄く切り、猫に与えた。すると、むしゃむしゃと夢中になって食べている猫の姿があった。それでも、猫の放逐を諦めない父は自転車の前かごに猫を乗せ、遠くへと出掛けていった。
パートから母が帰ってきた。妹はこれまでの経緯を話す。聞いている母の表情は厳しい。
「あんた、やってきた猫に餌付けしたんだよ。このまま居着いたときにお世話できる?」
「そこまで考えでなかった。あまりに痩せてたから、かわいそうになって……」
妹が話していると、父が帰ってきた。
「ふう、ダメだ。俺の後をついてくる。結局、家まで戻ってしまったよ」
傍らには猫がいた。しかも、父に擦り寄っている。結局、その日は段ボールを用意して、ボロになったタオルを敷いて、猫の寝床とした。夏真っ盛りだったから、そこに寝てても死ぬことはないだろうと踏んだのだ。
これが長い間続くことになる猫との付き合いの始まりになろうとは……
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