4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
昔、わたしたちは星だったんだよ、というのが祖母の口ぐせだった。
五十人にも満たない一族のなかで、祖母は語り部と呼ばれていた。
黒い髪に黒い瞳、赤銅色の肌のリルナの民――ひとつ所に定住したりはしない、わたしたちの。
リルナは国をもたない。家をもたない。親戚同士で大きな幌馬車に乗り合わせて旅をする。それこそ星空の下、馬車が家代わりだ。
いま、リルナに幌馬車は五つ。
わたしは、そのなかで一番ちいさな馬車の末子だった。
足腰が不自由な祖母は、他のみんなのような「ふつう」の仕事はできない。
伯父さんや従兄弟たちが体を鍛え、悪い盗賊や狼からみんなを守るため、すすんで武器をとるように。
伯母さんや従姉妹たちがうつくしく装い、街角で披露する歌や楽の音、舞の技を磨くように。
祖母は赤茶色の土で染めた毛織りのケープをすっぽりと頭から被り、日がな縄を編んだり、わたしが山野で採ってきた草や木の実を仕分けして、食事の下ごしらえをしてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!