リルナの民の星がえし

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 昔、わたしたちは星だったんだよ、というのが祖母の口ぐせだった。  五十人にも満たない一族のなかで、祖母は(かた)()と呼ばれていた。  黒い髪に黒い瞳、赤銅(しゃくどう)色の肌のリルナの民――ひとつ所に定住したりはしない、わたしたちの。  リルナは国をもたない。家をもたない。親戚同士で大きな幌馬車(ほろばしゃ)に乗り合わせて旅をする。それこそ星空の下、馬車が家代わりだ。  いま、リルナに幌馬車は五つ。  わたしは、そのなかで一番ちいさな馬車の末子だった。  足腰が不自由な祖母は、他のみんなのような「ふつう」の仕事はできない。  伯父さんや従兄弟たちが体を鍛え、悪い盗賊や狼からみんなを守るため、すすんで武器をとるように。  伯母さんや従姉妹たちがうつくしく装い、街角で披露する歌や楽の音、舞の技を磨くように。  祖母は赤茶色の土で染めた毛織りのケープをすっぽりと頭から被り、日がな縄を編んだり、わたしが山野で採ってきた草や木の実を仕分けして、食事の下ごしらえをしてくれた。
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