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――夜。
いつものように街へ出る。
すすけた夜空を反射したかのような薄暗い街並み。飽きもせずにどこかへと向かう人の群れ。一人ぐらい欠けてもいいような、そんな流れに身を任せて俺も歩く。
さて、今夜の獲物は何にしようか。
芽生えた殺意を抑えきれずに舌なめずり一回。
慣れた調子で辺りを見回し品定めをする。
やっぱり若い方が殺し甲斐がある。年寄りは駄目だ。奴らは本当に味気ない。皮はたるんでいて刻むには退屈だし、肉は締まりがなくて刺しても手応えが薄い。そして何より年寄りは活きがない。迎えがくる覚悟ができているからかもしれないが、絶望する呻きも苦痛に耐える喘ぎもあまりなく、ただ「はやく殺せ」の一点張り。しわがれ声でそんな願いをされても緊張感も緊迫感も足りない、足りない、物足りない。
繁華街の人の流れから抜け出し、裏路地の入り口に背を預け、通りに目を向ける。
目の死んだ奴に、生気のない奴に、色気のない奴に。
いまいち。心踊る獲物にはなかなか会えず、自然と足が揺れ動いた。
あぁ、早く若い肉を切り裂きたい。まだ年端もいかない幼子を、生きたまま解体したい。突き刺し、噛み締め、味わいたい。赤々とした血飛沫をまき散らし、腹を裂いて内臓をえぐり出したら一体どんな声で泣くだろうか? キメの細かい肌をゆっくりと、ゆっくりと剥いでその下の筋肉を撫ぜたら一体どんな涙を流すだろうか? 死なない程度に首を絞め、気を失う直前で緩める遊びをしたら何回もつだろうか?
早く。早く、早く早く!
口元まで滴ったよだれをすすりながら三十分じっと待った。じっと待ったがしかし俺を悦ばせる獲物は現れなかった。
その時、徐行をしながら一台の車が繁華街へと入ってきた。
とある店の前で止まり、男たちが降りてくる。
ふいに、目が留まった。その一群を見た途端、心臓がいつになく早鐘を打った。
やっと、俺を満足させるであろう獲物が現れたのだ。
暗い夜空を仰ぎ見て、運命とも言えるこの出会いを神に感謝した。
一呼吸の間を空けて――。
身を屈めて裏路地から素早く出た。人垣をかいくぐり、車の前へと躍り出る。
そして、運命の獲物の首根っこを掴んで脱兎の如くその場から走り去る。
「奴だ! 捕まえろ!」
数人の男が追いかけて来たが、奴らの足など俺には優は及ばず、物陰と夜を味方に裏路地の奥へ奥へと駆け抜ける。
振り返り、追手がいないことを確認すると獲物を地面へと乱暴に放る。
逃げようと必死に抵抗する獲物をひと蹴りし、上に覆いかぶさる。
さぁ、楽しい楽しい解体ショーの始まりだ。
うん! やっぱり新鮮な魚は旨いニャー!
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