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 だけど、それは正しいことではない。可能性は誰かに決められるものなんかじゃない。自分の中にあるものなのだ。そして、それを選ぶ権利は自分自身にある。彩斗はそんなことを伝えたかったのではないだろうか。  景は自問自答する。今、自分が本当にやりたいことは何だろう。自分はどうしたいのだろう。何を選択して、どこに行きたいのだろうか。ずり落ちてきた鞄紐が肩に食い込む。  そこで景は思い出した。この重みの中に何が入っているのかを。付箋がたくさんつけられた英単語帳、学部の特色を比較するために集めた大学のパンフレット、使いやすさを重視して選んだ文房具。  芸能活動を休止して大学に行くことを反対された後も、陰ではこっそりと受験勉強をしていた。口では「諦めた」と言いながらも、身体は自然と机に向かっていたのだ。きっと初めから分かっていた。諦めたくなんてなかった。何をしたいかなんて、自分が一番に分かるのだから。  止めていた歩みを進める。歩みは次第に駆け足になっていた。自分を殺すのはもうやめたい。己の手で未来を選択したい。景の心にはそんな感情が芽生えていた。  風のごとく夜道を切り裂いていく。家に帰ったら、もう一度話をしよう。反対されるだろう。衝突するだろう。だけど、それでもいい。  星影を映したその瞳は、まだ青いから。
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