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「あーえっと、なんて言うの。つまり、その……お前さ、本当は大学に行きたいんじゃねぇの? だから、行きたいっていう気持ちがあるなら無理に諦めたりする必要なんてないんじゃないかと思って。自分の選択を決めるのは他でもない自分だから、可能性は自分で選んでいいと俺は思うんだけど」
彩斗の言葉に景は息をのむ。心の底に淀んで溜まっていたものがかき回され、沈んでいた何かが浮かんで姿を現したような気がした。沈黙を打ち破るように、彩斗は軽く手を合わせる。
「はい! これにてひとりごと、終了! なんか俺、ちょー恥ずかしいセリフ言った気がするわ。今、言ったこと記憶から消去してくれよな。さあ、帰った帰った」
彩斗はおどけたように笑って、景を玄関の外まで押し出した。「じゃあ、またな」と言い置き、扉がバタンと閉まる。扉の前で景は呆気に取られていた。色波家を後にして、街灯が点々と灯る道を歩き出す。ふと、足を止めると黒く塗りつぶされた夜空に僅かな星が瞬いていた。彩斗の言葉が脳裏に蘇る。
『お前の瞳はキトゥンブルーに見えるよ』
『自分の選択を決めるのは他でもない自分だから、可能性は自分で選んでいいと俺は思うんだけど』
キトゥンブルー。子猫のうちにしか見ることのできない瞳の色。まだ何色になるか分からない可能性の色。彩斗はそう言った。自分の瞳の色がキトゥンブルー。自分の未来は遥か昔に決定されているもので、意見が通らなかったり否定されてたりしても仕方のないことだと諦めていた。
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