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*  景は都会の喧騒から離れ、閑静な住宅街の中を歩いた。自販機、夜道に点々と灯る街灯、児童公園。幼い頃となんら変わらない景色。そんな長閑な風景が景は好きだった。公園の前でふと、足を止めた。生暖かい風が頬を撫でる。公園の桜は月夜の下、花びらを散らしていた。桜の季節もじきに終わる。  白と黒を基調としたモダンな雰囲気の我が家が見えてくる。一般の住宅よりも少しだけ大きいその家には、今日も灯りが灯っていなかった。家全体が眠っているようにひっそりとしている。  景は自宅を素通りし街路を歩いた。5分とかからないうちに幼い頃から何度も見慣れた幼馴染の家が姿を現す。「色波」という表札の下に、『保護猫カフェ いろなみ』とポップな文字プレートが掲げられている。景はためらいなく玄関扉を開けた。  入ってすぐのカウンターにベージュのエプロンをかけている青年──色波彩斗(いろなみあやと)がいつものように立っていた。 「あれ、景じゃん。珍しいー、今日は制服だ。ていうか、なんかすごくげっそりしてるじゃん。いつもの爽やかスマイルはどこ行っちゃったの」 「今日、久々に学校行ったんだけど、ほら、年度が変わって新入生が入ってきただろ? だから、それでサインやら写真やら、しまいには握手会とかが始まりだして大変だったんだ」 「人気者も大変だねぇ。どうりで十歳くらい老けて見えるわけだ」 「さすがにそれは言い過ぎだろ。あ、これ、少しだけど缶詰買ってきたから」    景は鞄から帰りがけに買った猫缶を取り出し、彩斗に渡した。 「ありがとう。毎度毎度助かるよ。そんな景には、ふれあいタイム(俺のお手伝い付き)をサービスします」  彩斗はそう言うと、ふれあいルームに移動した。景は白けた目で彩斗を見た。これは彩斗のいつもの決まり文句だ。色波家は保護猫活動をしていて、一階は保護猫と触れ合えるカフェ、二階は住居スペースとなっていた。  幼い頃、色波家に遊びに来ては猫たちと戯れたものだ。そして、今ではスタッフ並にカフェを手伝うことが増えている。景は猫が好きな方だったため特に拒む理由もなく、色波家に顔を出すたび手伝いをしていた。
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