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景は彩斗の手からスマホを奪おうとした。が、思いのほかスマホを握る力は強く、なかなか奪うことができない。彩斗は歯を食いしばっている。意地でもスマホを離さないつもりらしい。
仕方がない。景は最終手段に出ることにした。掴んでいた片手を自由にする。親指と人差し指で輪を作り、彩斗の額の前に手をかざした。彩斗はしまったという表情で攻撃を避けようとしたが、遅かった。
指が弾かれ、景の必殺奥義・デコピンが炸裂する。スマホが落下し彩斗はその場にうずくまった。
「いっっつ……暴力反対!」
「頭をかち割られたくないなら、スマホを大人しく渡せ」
「はいはい」
「よろしい」
「景ってば、本当、テレビの中とリアルの性格違うよな。二重人格かと思う。爽やかイケメンの欠片もないわ。ていうか、最初から文秋に流そうなんて思ってないから。冗談だよ、そんなマジになるなって」
「お前の冗談は趣味が悪いんだよ」
景は彩斗を睨みつけた。
「で、なんで大学行きたいの?」
「幼馴染を売ろうとしたお前に教えてやる義理はない」
「はいはい。すみませんでした。俺が悪いです。お許しくださいませ、神様、仏様、雪平景様」
彩斗は手を合わせて拝んだ。景は呆れたようにため息を吐き、そっけなく呟く。
「……大学で色々なことを学んで見聞を広げたいんだ」
「なるほどねぇー。いいじゃん。景も真面目に進路について考えてんだな。でも、活動休止しなくてもいいんじゃないの? 大学生って時間あるって言うしさ」
「それは……」
景は口ごもった。脳裏に母の姿がちらつく。これ以上、深掘りしてほしくなくて彩斗に同じ話題を投げかけた。
「彩斗はどうするの?」
「んー俺? とりあえず保護猫カフェの運営を続けるつもりだよ。でも、獣医とか動物看護士とかの資格持っていたら、役に立ちそうだし進学も捨てがたいな。あ、そうだ、景に見てほしい子がいるんだった」
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