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 彩斗は鞄に乗っていたキジトラ柄の猫に近寄り、頭を撫でる。 「景の鞄の上はよっぽど居心地が良かったんだな。よかったな~タマ」    景は耳を疑う。彩斗の側にいるキジトラ柄の猫を凝視する。 「タマ? 本当にタマなのか?」 「ああ、そうだよ。この前は子猫だったけどな。動物の成長はあっという間だ」    まるで別の猫のようだ。当たり前のことだが、三か月前からは想像できないほどの大きさになっている。それもそうか。あの春の日以来、色波家には来ていなかったのだから。彩斗に教えてもらわなかったら、同じ猫だと気付かなかっただろう。金色の瞳がきらきらと輝いている。その瞳を見て景は何か違和感を覚えた。 「あれ、タマの目の色って青色じゃなかったっけ?」 「ああ、そうだな。猫って言うのは小さい頃はみんな同じ青色の瞳なんだよ。キトゥンブルーって言ってな、小さい頃しか見れないんだ。成長していくうちに、メラニン色素が沈着していくから本来の色が分かるようになる。青に緑、黄色、褐色、稀に左右の色が違うオッドアイなんてのもある」 「そうなんだ。初めて知った」 「子どもの頃に本来の色は分からない。俺らと一緒で可能性に溢れてるな」    彩斗はタマを撫でながら嬉々として語った。その隣で景は俯いて苦笑する。 「『可能性に溢れている』か……」 「ん、何か言ったか?」 「いや、なんにも。今度こそ帰るよ。明日も早いんだ」 「そっか。じゃあな」  景はソファーから立ち上がり、鞄を肩にかけて出入口に歩き出した。 「なあ」 「何?」  入口から出ようとしたところで彩斗に引き止められる。彩斗は何かもの言いたげな表情をしていた。そして、柄にもなくボソボソとしたはっきりのしない声で喋り始めた。 「これは、俺のひとりごとだから無視していいんだけど……俺にはさ、まだ、お前の瞳はキトゥンブルーに見えるよ」  瞳がキトゥンブルー? 突然何を言い出すのだろうか。景は思わず首を傾げた。彩斗は視線を彷徨わせ、後頭部に手を当てる。
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