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恋愛短編(中編) 蛍
何かを失うときはいつも突然で一瞬のことだと人々は言う。そしてそれは本当だと思う。名誉や信頼は築き上げる時間がかかるわりには、行動一つで崩れ去る。思い出や逢瀬の末に完成した物語だって、言葉や感情のすれ違い、見たものの解釈の違いで、徐々にもろくなっていき、ある日突然に崩壊するのだ。
彼はこの世界の生き辛さと残酷さを今まで知らなかった。それは彼の大切な人が身をもってそれを教えてくれた。その人が隣にいてくれて当たり前のことだと誤解していた彼にとって、その事実は胸を貫き、えぐりぬく刃に等しかった。
この世はとても暖かいものだと人々は言う。そしてそれは本当だと思う。希望や理想は築き上げる時間は長いし、崩れ去るのも一瞬だが、志を同じくする人たちはずっと寄り添ってくれるし、もし崩れ去ったとしても煉瓦を積み上げるのを手伝ってくれる人も中にはいるかもしれない。小説などの創作物にはバットエンドがあり、物語もそこで終わってしまうが、現実ではそのあとがある。
彼はこの世界にある救いという存在を今の今まで知らなかった。その存在は彼の大切な人が教えてくれた。その救いの温かさは、彼の胸を貫いた傷を癒し、もう一度立ち直させるに十分だった。
これからの物語を、非現実的だと笑い飛ばす人も中には入るだろう。グダグダうだうだと立ち上がることもなくわめき続ける彼に苛立つ人もいるだろう。
これは彼が大事な、それこそ一生をかけて守りたかったものを失い、明けない夜をさまよい続けた先に見た救いの物語だ。
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