初恋

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 引っ越す前の地域では、雨が降ったとしてもポツポツと可愛らしく少量の水滴が落ちるだけで、傘をさすほどでもなかった。そのため、ほとんどの人が傘を持っていなかった。だから、僕は傘に関する情報を全くと言っていいほど知らない。  司書さんが傘を貸してくれた翌日も、学校の帰りに図書館へ寄った。  傘を返さなければいけないことはわかっている。けれども、晴れている日に傘を持ち歩いているのはおかしな人と思われそうだったから、借りた傘は持って行かなかった。 「こんにちは」 「こ、こんにちは」  小学校高学年向けの本棚を眺めていると、まだ閉館の時間でもないのに司書さんが話しかけてきた。司書さんが少し屈んだことによって僕の真正面に現れた笑顔に、思わず目を逸らしてしまいたくなる。 「何か本をお探しですか?」 「……雨の本、ありますか?」  別に何かを探していたわけではなかったのだが、パッと思いついて言った。前日目にした雨がとても印象に残り、もっと雨について知りたいと思った。
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