28人が本棚に入れています
本棚に追加
2人は途中コンビニに寄った。古いコンビニである。
「お前、ここきたことあんのか」
由貴は嫌な予感しかないような顔して店内を見渡す。
「なんとなくここに足が……てかなんで虹雨はあそこにいたん?」
コンビニといってもチェーン店ではない昔酒屋だったところがコンビニ風にしたようなお店である。棚には何故か水中花やぬいぐるみが飾ってて蛍光灯も薄暗い。チカチカする。
「……あのビルにお化けが出るって噂で聞いてな。撮影に来てたんや……って由貴、少し盾になれ」
「え。なに」
由貴の背の高さを生かして虹雨は身体の隙間からスマホのカメラをどこかに向けている。由貴は気になって見ようとするが虹雨につねられる。
「撮影ってなんなん。今もそれか?」
「……俺、恐怖系動画チューバーやってん」
「まじかよ……まさかお前、あれを利用して」
虹雨はコクリと頷いた。
「そこまで金にならんがあれの力でな」
「うまくやってんなぁ、その手があったか」
「それしか俺には能がない」
「でも見たことない、恐怖系動画チューバーだなんて」
「まだまだこれから、これから伸びてく」
「何年やってんや、実家の居酒屋で働いてたんやないのか。それにその怪しい格好」
明らかに由貴のラフな格好と不釣り合いな全身黒スーツにサングラス、おかしい。
「居酒屋辞めて上京してもう8年、これでやってる。あの時の金は全部居酒屋経営の借金に回ったからなーほとんど居酒屋の売り上げでなんとか実家は生活してるようなもんや」
「てか八年前から東京におったん? うまくいってるのか」
「さっきも言ったろ、金にならん。うまくいってたらいまさらこんなことしてねぇやろ」
「……スカひいた」
「スカって、ひどいな。でもお前と再会したからうまくいきそうな気もする。感じないか? さっきのカラッとした空気からじめっとした空気感」
「もうさっきから気づいとる……」
由貴は商品を見ながらもスマホで『恐怖系動画チューバー』と検索して探す。虹雨がいうよりかは意外と多かった。いつもKPOPアイドルとブラックミュージックと子犬の動画しか見てないことに世界の狭さを感じた由貴。
「あ、あった。……何、コウ先生の除霊教室……幽霊に説教?!」
「今、鼻で笑ったやろ。てかよく見つけたな」
「映像には何も映ってない。やばい黒尽くめの男が説教してるだけや」
「実際にはいたんだぞ。動画にしたら映らん。でもなそこの地縛霊に苦しめられてる視聴者からメールもらって行って幽霊見つけて説教したら成仏するんだよ……まぁその様子は一部ユーザーからも人気なんや~」
にこーっと嬉しそうに虹雨は笑う。その笑顔は昔と変わらない。
「多分僕も立ち会えば見えたかもしれないけどみえない人にとっては虹雨はやばい人だよ。昔のあの頃は僕ら子供だったからよかったからであってさ。てかコメントもヤバい、通報案件だとか、アンチ……コメント数の割には登録者少なっ、てあれ?」
この冷めた由貴の返しも変わらない。
最初のコメントを投稿しよう!