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2人は架空の通報であのビルで女の子がいるかもしれないと警察に電話し、その日の昼のうちにビルの用水から女の子の遺体が見つかったと緊急速報を由貴と虹雨がラーメン屋で見たのだ。
「用水か……ブヨブヨやろうなぁ。可愛かっただけに残念だなぁ」
と由貴はデザートの杏仁豆腐を突っつく。横ではスマホと睨めっこしながら昨晩の動画を見直している虹雨。
動画はやはり幽霊たちやコンビニは映ってはいないし、空き地で2人がただ騒いでいるだけであった。
「それを上げるのか?」
「……撮影時間勿体無いやろ。なによりもお前の恐怖に慄く顔が最高やん。これであとは効果音つけて……て、何すんや」
「スマホで全部編集してるの? 通りで雑な感じがした」
「今はスマホでなんでもできるんや……簡単やろ。雑なところが知ろうとっぽくてそれも良い」
すると由貴がカバンからノートパソコンを出した。
「これから死にます、ていう人のカバンの中身やないな……」
「他にも小型高性能カメラもあるし、音を出すサンプラーもある。死ぬときはこいつらも一緒だって思ってた……てかこれが自分の荷物の全部……」
と言いながらも勝手に頼んだ杏仁豆腐を口に入れていく。
「そうや、動画の編集は俺に任せてくれ。趣味で知り合いの結婚式のムービーとか作ってた。こういうのとか」
「……趣味やろ? そんなもん……それにお前にそんなことが……」
と、目の前で流れたのはプロが撮影編集したとしか思えない動画であった。
「トータルプロデュース、由貴! イッツミー」
ドヤ顔する由貴に虹雨は頭を下げた。
「よろしくお願いします……お前にそんな才能あったなんてな。なんで仕事にしなかった」
「趣味を仕事にするとろくなことないよ……まぁこれからはそうするしかないかなぁ。それよりも虹雨はちんちくりんだがそこそこ顔もいいし、話術もええ」
「ちんちくりん? そこそこ?」
しかめっ面をする虹雨。それは事実である。
「コメント欄見たが一部お前の信者も少なからずはいる、老若男女……お前はタレント性はある、このコンテンツは爆発的に跳ね上がる……て。新卒から落ちこぼれてフリーターになって宿無し金無しに言われてもなぁ」
「そんなことねぇよ。昔から新しい物好きで流行に敏感やったなあ」
「虹雨だって他の人が気づかないところにすぐ気づいてくれる……悪く言えば粗探しだが」
「お前はすぐネガティヴに変換する!」
「ほらプライド高い、自分好き!」
「自分好きで何が悪い!……て、雨が降ってきたな」
「ほら自分が不利になると話逸らす」
一気に外は大雨。そんな予兆もなかったのに。
「天気予報はずれたな……傘持ってないし」
虹雨はどうやら新しい黒スーツを着ていたため濡れたくないようだ。
「大丈夫、雨雲レーダーだとあと10分で止むらしい。ただの通り雨だ」
由貴はスマホで確認した。
「便利だな、今。その雨雲レーダーがなければあの時も……」
「だよな……」
あの時。
そう、あの時だ。
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