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2人が小学生3年生の頃だ。地元の天狗山に遊びに行き、いつもとは違う道をと進んでいったら迷い、そして大雨で足を滑らせて2人で崖の下まで落ちたのだ。
由貴は左足首を、虹雨は右手を強く打った。立ち上がれなかったがほふく前進で屋根のある祠までなんとかたどり着く。そしてそこで雨宿りするしかなかった。
「ごめんね、僕が誘ったから」
「そんなことないよ、雲が変な色していたのに大丈夫って言った僕が悪いよ」
「そうやて、虹雨が雨のひとつやふたつ平気だろって……!」
「なんだよ、俺のせいにする気か? そもそもあっちの道にするとか決めたのお前やろ」
怪我をしているのにいつものように喧嘩する2人。だが虹雨はなにか生暖かいものが頭から流れ落ちたのに気付く。
「虹雨、頭から血が……」
「うわ、まじか……頭切れてたんか。いつもは違う意味でキレててさ、俺は……」
「冗談言ってる場合やない! これ以上動いちゃダメやよ」
由貴が持っていたハンカチで止血をするがだんだん赤く染まって行く。
「……由貴、お前も鼻血……」
「あっ」
右鼻から鼻血が出てきた由貴。と同時に目眩が起きて横たわる。2人寄り添い、狭い祠の屋根の下、せめて上半身だけでも濡れないようにと……。
「なんか変な石像あるぞ……鼻がでかい」
「これ、天狗様やないか」
「ばあちゃんがなんか言ってた。この山にはこの街の幽霊たちを取り纏める天狗様がいると……」
「幽霊をまとめるのが天狗って変やん」
「虹雨、もうしゃべんな」
「俺からしゃべりなくすなんて無理なことを……」
「無理やね……」
「……」
虹雨は目を瞑った。
「そうだよ、君が喋んなくなったら……この世がつまらなくなる」
由貴も薄っすらと意識が遠のいていく。天狗の石像を見る。
「ねぇ、天狗様。助けてや……この街を守ってくれてるやろ? ……僕たち、何か手伝うから……助けてよ」
と、小学生ながら命乞いしてしまう由貴。
「こんなのダメだやよね」
すると雨が止んだ。そして雲から太陽の光が差し込む。
『本当に何か手伝ってくれるのか』
「せ、石像が……天狗様が喋った?」
『命を助けてやる、ただし……』
大きくて長い鼻の天狗様にそういえば、そんなことを言われたなぁと由貴は思い返す。
最初は意味がわからなかったが自分だけでなく、親友の虹雨も助かってほしかった。それだけだった。子供ながらに……。
命を助けられたことと引き換えに由貴は『幽霊をみえる力』と『幽霊を惹きつける力』を。そして虹雨も『幽霊がみえる力』と由貴とは違って『幽霊を除霊する力』を授かったのだ。
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