─Bye Bye Blackbird

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 私たちが組織を構えるのはニュー・ジャージー州、トレントン。都市、ニューヨークにアクセスもよく、自然豊か。主に仕事でだが、治安の悪い場所に行くことも苦にならない。住みやすい場所だ。そこから地下鉄に揺られること数分。  五大ファミリーの統率が取れなくなったのは2019年3月13日、ガンビーノファミリーのボス、フランチェスコ・カリが自宅前で撃たれてからだ。  ニューヨーク市に本拠を置くコーサ・ノストラいわゆる、マフィアはFBIの検挙率のせいで今現在、隆盛を誇った全盛期、1940年代から1960年代の面影はない。散り散りになりながらも、現在、ボナンノファミリー、コロンボファミリー、ガンビーノファミリー、ルッケーゼファミリー、そして、私たち、ジェノヴェーゼファミリー、五つのファミリーが鳴りを潜めている。  2011年にFBIが約120人のマフィアを大量摘発してからというものの、表立った活動は出来ず、五大ファミリーは実質壊滅状態だった。  そこに活を入れたのは、私たちのパパ、ヴィンセント・サルレロだった。誇り高きマフィアという仕事を愛し、ある種受け継がなければならないというプライドの元、血気盛んに活動を開始した。その活動は、2019年に亡くなったフランチェスコ・カリの葬儀に顔を出してからだった。命を狙われるという決まりごとが目の前にぶら下がっていることを再認識したのかもしれない。  今まで、水面下で動いていた活動は少なくなり、派手で目立つものが増えていた。それは世間が注目するほどにだ。ニューヨーク・タイムズに記載されたとき、パパは大喜びだった。全盛期のような活力を取り戻したいと思うパパ。私たちはその意志の元に活動している。 「ジル? 眠い?」  プラスチック製の硬い椅子、お世辞にも快適とは言えない運転技術。そんな喧騒の中で夢うつつになりそうになっていた。レオのその言葉に目をこじ開ける。重たい扉を力一杯押し開けるような力でどうにか目を開けた。 「んー……。ごめんね、大丈夫…おきてるよー」 「起きてねぇだろ」  隣からイーサンの声が聞こえてくる。ケタケタと笑うイーサンは私の膝に手を置いていた。彼が私の太ももを一定リズムで叩いている。とん、とん、とん、と。それは寝かし付けるようなもので、更に私の眠気を呼び起こす。 「起こしてあげるよー」 「うん、レオ…ありがと…」  寝てなよ、と言いたいレオの声は高音で私の眠気を覚まさせる。それをイーサンが叩く一定のリズムが私を眠りに誘う。メトロノームのように行ったり来たりするそれが心地よかった。ふたりの体温を感じる。気配を噛み締める。幸せだ。任務のこともなにも考えることない数少ない幸福な時間。  レオはパパと、とある女性との間に生まれた、直系親族に当たるジェノヴェーゼファミリーの跡取りだ。今はパパの下に、アンダーボスがいて、パパが死んですぐにレオが跡取りになるわけではない。が、パパの死後、今のアンダーボスがボスになり次第、彼が次のアンダーボスになるだろう。そして、ゆくゆくは彼がボスだ。   「……レオ。少し静かにしな」 「寝ないって……」  イーサンがレオを叱るそんな声を聞きながら、イーサンの肩に頭を乗せる。  地下鉄はサプライズで溢れている。誰かが歌い出したり、誰かの財布が無くなったり、誰かが手品を披露し、誰かがそれを見破れるか賭けたり、汚い言葉を存分にふくんだ壮絶な別れ話があったり。そんな珍事が当たり前だ。そんな日を平穏と呼ぶ。だが、今日はそれさえもない。平穏の最たる平穏。イーサンに肩を貸してもらい、レオの子供ならではの温かい手を握り締める。 「寝ないって言いながら、おまえはさっきから寝てるんだよ。黙って寝とけ」 「そうだよ、ジル。しぃーー……」  こじ開ける瞼の間から、レオがふふっと笑いながら唇に指を当て、静かに!のジェスチャーポーズをした。 「ん。レオもしぃーー…出来てえらいねぇ」  私はレオがしたジェスチャーポーズを真似て、レオの頭を撫でる。
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