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すべての仕事を終え、家路に着いたときには既に日が登っていた。期限付きの朝。あと数えるほどしか見られないこの朝日に目が焼け溶けてしまいそうだ。輝かしい。この光に呑み込まれてしまいたい。
けれど、その光は、私の心に暗い影を落とす。靴を投げ出し、蹲るよう形で座席に身体を沈めた。
私たちにはランク付けがなされている。私に罵詈雑言を放った女もクリスティーナにもそれなりの地位があり、それは私も同じだ。仕事で疲れた体に鞭打って自力で車を運転しなくていいというのは、そのランクと同義だった。大きなメリットだ。カポ・レジームという地位はそれなりに優遇される。上位構成員に完全に従うということを意味する服従の掟。家族内では、この掟は絶対と言われており古くからの決まりだ。
目を背けた朝日をまた見たいと、視線をあげれば、温度差のある雲った窓ガラスから水滴が一粒流れ落ちる。車内は適温であたたかく、眠気を誘ってくる。欠伸を噛み締めた。座席に埋もれる体は硝煙の匂いが染み付いている。微睡む意識の中で、その匂いだけが嫌に脳裏にこびりつく。
どれだけの人間にライフル銃を向けただろうか。どれだけの数、その肉体から流れる血を見つめただろうか。
防弾ガラスがはめ込まれた車の中でライフル銃と共にいる。この世界は、答えのない問題で溢れている。答えの出ない問い、私たちはそれにどう向き合うか、どう考え、どう納得するか、その過程にだけ価値も求められる。……どう納得するか、言うだけなら簡単だ。
「ついたら起こしますよ」
「……ん」
運転席のジョン・ドゥが私の気配を感じながら車を走らせていた。先程助けた少年より歳を重ねた青年。彼はなにを思ってこの組織にいるのだろうか。アソシエーテという、まだ構成員にはなれないない地位。運転手でしかない彼。……彼に銃口を向けなければならない日まで、数える程度だろう。そう遠くない未来。
いつか夢から覚めなければならない。自らのド頭に弾丸、ぶち抜いてこの微睡から抜け出さなければならない。
「クリスティーナたちは無事?」
「えぇ、連絡が入りました。負傷しているそうですが、家には無事に着いたようです」
会話の流れを縫ってスマートフォンが振動した。心臓に近い場所にしまってある一台の機械を取り出してみる。
犬。調子はどうだ?
「私たちも帰りましょう。家に」
良好
その一語だけ送信し、犬と私のことを書いてあったメールは素早くデリートする。
「えぇ、そうね」
家族の待つ家に帰らなければ。
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