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「……ちょっ、と! イーサン!」
ファミリーの待つ家に無事着き、ライフルを片付けようと自室に入る瞬間だ。にょきりと伸びた、がたいの良い腕に身体を絡め取られてしまった。驚き、目を見張れば、瞳を欲に染め上げた獣がいた。危うく約6kgの鉄の塊を落としそうになる。血液が付着していないのは幸いだけれど、硝煙の香りが私を包んでいる。正直、今は触られたくない。
「ジル、おかえり」
「ただいま。離して」
この瞳に見つめられると駄目になる。色香を含む…という意味ではなく、このサファリンのように光り輝くグレー色の眼球に見つめられると、という意味だ。私たちが毎日のように触る鉛色の弾丸ではなく、光の入り様によってはブルー色も混ざるグレーの瞳。
「……疲れてる」
「顔色見れば分かる」
ちゅっ、と音を鳴らして私の唇にキスを落としたイーサン。言っていることとやっていることが随分違くて、小さなため息が溢れた。そのうちするりするりと、ライフルバッグが私の肩から彼の手によって降ろされる。片手で軽々とライフルバッグを持ててしまうこいつの肉体が好きだ。角度を変えて何度も口付けられる。
「やめて」
「嫌なら振り解け。逃げろ」
私の後頭部を優しく撫で、鼻同士をこすりつけ、そんな白々しい言葉を吐く。私がこの手を振り払えないことをしっかりと知っている。イーサンは任務でもプライベートでも随分な自信家だ。
私の下唇を食すように唇で挟む彼。下唇が引っ張られ外気に触れる。寒さと熱さが押し寄せた。イーサンの大きな手がライフルバッグを床に落とす。乱暴に置けば殴り蹴り立ち去ろうと頭の片隅で思ったのに、それを見限られていたかのように優しくおろされ、もう引き際が無くなった。
「シャワー浴びた…い」
「イヤ。硝煙の匂いとおまえの香りがなくなる」
大胆に、それなのにどこか繊細な彼の指先がパンツのトップボタンを外し、ショーツのレース部分をなぞる。子宮を覆うショーツと冷えた肌の間に指を入れられ、ぱちんとショーツを弾かれれば、私はもう足掻けなかった。
こいつにとって、硝煙の匂いも情欲を煽るものにしかならないのはもう随分前から知っている。シャワーに入れないことなんて、腕を攫われたときから分かっていた。
後は駄目押しに、そのグレーの瞳で私を射抜く。毒が回った。猛毒が巡りめぐり背筋を痺れさせる。私はイーサンの肩に腕を乗せた。キスが深くなり、朝に似つかわない水音が彼の部屋いっぱいに広がった。口内が熱い。熱に犯される。冷えた歯茎の間をぬめる舌先。あぁ……イーサンの性器はもっと熱いんだろう。私の膣はそれより熱い。
「…、腕上げな」
服の中に忍び込み、下着を押しのける彼の手が臍の上を這った。冷え切った身体はそんな些細な刺激でも敏感に感じ取る。緩慢な指先が臍を撫で上げ、より私を誘惑していく。子供の着替え、そんな命令に従順に従う。
「イー、サン…、んっ、あ、熱いっ、…」
「は? 冷てぇよ」
キスをする隙間、絡み合う舌の間でケタケタと笑われる。自身の口の端から唾液が垂れるのがわかった。笑いながら口元の唾液を舐めとるイーサンに身体が痺れる。
綺麗に服を剥かれるとたしかに肌は寒いと反応し始めた。室内はあたたかいけれど、季節は冬。鳥肌が立ち始めた私の肌。それを太い指で丹念になぞっていくイーサン。凹凸を楽しむ指は、やはり熱かった。高低差のあるその行為は私の奥、最奥からドロリと蜜を溢れ出させるのには十分なものだ。
パンツも脱がせられると、筋肉質な腕に抱えられる。舌先が繋がり、吸われたままイーサンに抱き抱えられ、私も彼の腰に足を絡ませて身体を預けた。器用な指先はそのままブラジャーのホックを外す。解放感が更に私を煽る。ダブルサイズのベッドに降ろされた時にはショーツだけの姿だった。
「寒い……」
「暑いつったり寒いつったり忙しい奴だな。ハハハ、震えてんじゃねぇか」
いまだ一枚も服を脱いでいないイーサンは意地悪くそう言い笑う。
朝日に照らされた白いシーツはまるで雪のよう。夜中深々と降り積もった雪に身を預ける瞬間に似ている。レオと雪で遊ぶ時と似た嬉々を感じ、イーサンを見上げた。……獰猛そうな捕食動物が見え、不埒な嬉々だと考えを変える。
ようやく洋服を脱いだ彼は、──……たしかに寒いな。とぼやき、私ごと布団に潜り込む。美しく割れた筋肉が私の太腿の上で擦れる。
「愛してる。ジル」
その一言でよりいっそう私は溶けて熱くなる。
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