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考えていたより早かった。その時は唐突にやってくる。面白いほど簡単にそして無慈悲に物事が動く。
定時連絡で今夜、パパのバースデーパーティーが開かれることを明記した。上は今夜が狩に適していると、そう判断したのだろう。
「あら、ごめんなさい。まさか裸だとは思わなかった。出直す?」
「さっきまで銃弾浴びたとは思えないほど元気だね。クリスティーナ」
いいよ、大丈夫。そう続けて、クリスティーナの後ろにいる男に目を向けた。家族以外の人間がこの部屋にいる。それが気持ち悪く感じられた。身体に巻き付けたバスタオル以外にもう一枚タオルを手に取り、髪の毛の水滴を拭いていく。がしがしと頭を拭くたび、ジャーマン・シェパード・ドッグと同じツートンカラーの髪の毛がゆらりと揺れる。
歳を重ねるごとに分からなくなることが増えた。今まで得てきた経験を丸ごとぶつけても解決しない課題。自分はコントロールできても、他者と世界の秩序を理解することは難しい。不可能だ。それでもこの世は自分と自分以外で構成されている。そんな世界に頭を悩ませた。なぜ、なぜ、なぜ。そのふたつと対峙しなければ、それまで知らなかった価値観や考え方を教えてもらえる、そんな人生の先輩のような存在に思える。かと思いきや、未知の存在、外来種のようにも思え、その存在を疎ましく感じた。その落差をカバーするのに必死で、もがいていた。自分以外に優先すべきものを崇めたり、蔑んだりするのに疲れてしまっていた。だから置き去りにしていた。
「私は撃たれていないわ。撃たれたのはアメリア。……今夜のバースデーパーティーであなたのアシスタント兼、ボディガードを務めるスペンサーよ。なにかあったら彼に伝えてちょうだい」
目を瞑っていた。分からないことは脳裏のどこか奥底に蓋をして見ないふりをしていた。それを開けるときが来てしまった。
蓋をした物の理解を疎かにすると、自身の世界が全てになる。自身の感情を剥き出しにするとコントロールを失う。ルールから逸脱する。逸脱した。
「見ない顔だけど信用できるの?」
「えぇ。心配しないで。クリーンよ」
「そう。あなたが言うなら安心ね」
サンクチュアリには神聖な場所という意味がある。法律の力が及ばなかった中世の教会などの領域・エリアを指す言葉だ。その他に、犯罪者の逃げ込み場所という意味もある。私が大切に作り上げたここがサンクチュアリであることは明白だ。
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