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――ま、待って。これ、いじめどころの話じゃなくない?虫が湧くくらい不衛生なところに閉じ込められてて、ごはんも満足に与えられてなくて、兄弟が死んでるって!?
血の気が引く思いがした。どう見ても、私の手には余る案件だと気づいてしまったからである。明らかに、児童虐待の範疇さえ超えているではないか。
すぐに警察に連絡を、と思って一瞬私は躊躇った。というのも、彼の“自分は超能力者”という話に引っかかりを覚えてしまったからである。最初は、特別な存在になりたい――いわば厨二病的な妄想でそんな風に語っているのかと思っていた。手を触れることなく、親のパソコンを勝手に触って連絡を取れてしまうなんてちょっとかっこいいじゃないか、と。
だが、この凄惨な話が真実であるなら、そんな少年がそのような厨二で非現実的な話をヘルプコールで持ち出してくるものだろうか。いや、そもそもこのとんでもない虐待話はどこまで真実なのだろう。
実はこの少年が、とんでもない被害妄想や精神的な病を抱えていて、それで“自分は虐待されている”という思い込んでしまっていたら。警察に通報すれば、病んでいるかもしれないご両親にさらにストレスをかけてしまうのではないか。
いや、そもそも住所を聞かなければ、警察もメールの発信元を特定するまで時間がかかると思われるが――。
――ど、どうしよう。
ぐるぐると悩んでいるうちに、さらに連絡が来た。
『たすけて。おなかがすいているのに、とてもくるしいです。
ぼくのまえのあかちゃんもつれていかれてしまいました。たすけてください』
私は、自分が大きな思い違いをしていたことを知る。僕、という一人称だから相手を少年だったと思い込んでいたが、実はそうではなかったのかもしれない。
僕の赤ちゃん、なんて。妊娠をほのめかすようなことを、果たして普通の少年が言うだろうか。
『わかりました、助けたいのであなたが住んでいるところを教えてください。分かる範囲でいいです。東京都だとか、大阪府だとか、そういうことだけでもわかりませんか』
私の本気が、彼女?に伝わったのだろうか。
栃木県、森のようなところ、小屋のようなところ。トラックがいっぱい来る。●●というのが市の名前なのかもしれない、窓の外に〇〇が見える――分かる範囲で、住所に関係してくるであろう情報を伝えてくれた。
私がそれらを全てメモした時、異変が起きた。明らかに様子の違うメールが向こうから送られてきたのである。
『センターの方、大変申し訳ありません。
うちの子供が悪戯で、そちらにメールを送ってしまったようです。
悪戯なので、何もかも事実ではありません。どうかお気になさらないでください』
親にバレたのだ。私は慌てて、警察に電話をかけたのだった。
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