火遊びは遠慮します

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「ねえ、見てよあれ」 「うわー、美人。でもエロいな。絶対遊んでるっしょ」 「ね。“ああいうの”ってモテるけど、結局遊びで終わって男に大事にされなさそう」 「確かにー!」  コンビニでおにぎりを買っていただけなのに、何故ここまで悪口を言われなきゃならないの。  目が合うとすぐに去って行く、いかにも“男に大事にされてそう”な女子二人。  大学生くらいの、清楚な出で立ちが好感度抜群の彼女達の背中を見送り、小さくため息をついた。   「どうぞ」  レジを済ませると、若い男性店員にレシートを差し出される。 「あ、レシートいらないです」  そう会釈して踵を返す私の腕を男が掴んだ。 「いえ!あの!」 「……はい?」 「俺の番号です。よかったら連絡して下さい」  おでこの血管が浮き出てくるのを感じながら、「いりません」と微笑んで店を出る。  ああ、またひとつ行けるコンビニを失った。 「お姉さんどこ行くのー」  昔からそうだった。 「今、暇?」  生まれつき目鼻立ちがはっきりしていて、小学校高学年くらいから発育が早かった私は、中身よりもだいぶ派手な人間に思われていた。  そのせいで学生時代から、「男に媚びてる」とか、「遊び人」などと言われ、女子達から疎まれたことは数え切れないほど。  男子達には「チョロい女」だと思われ、実際の私が丁重に断ると逆ギレし「騙された」と罵られることも。  清純そうな女性らしい服を着ると「逆にエロい」と言われ、ボーイッシュな格好をしても「逆にエロい」と陰口を叩かれる。  かっちりしたスーツも、キャラクターTシャツも、パーカーも、ネルシャツも、ロングスカートも、「逆にエロい」。  何をしても「逆にエロい」。  開き直って派手めな格好をし「遊び人」を装うしか道はなかった。 「ねーどこ行くのー」  さっきからうるさいな。  チッと小さく舌打ちし、信号待ちの間にまとわりついてきた男の肩を人差し指でつついた。 「しょ、く、ば」 「な……」 「私、夜はこのお店で働いてるから来てね。待ってる」  適当にその辺のクラブを指差すと、間抜けな顔で棒立ちになる男に手を振った。  あー面倒くさい。  除菌ティッシュで念入りに手を拭き、オフィスのエレベーターに乗り込む。  ……こんな毎日、もうウンザリだ。  目を閉じて大きなため息。  再び目を開けるのと同時に、エレベーターも開いた。  
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