火遊びは遠慮します

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「お帰り(あや)ー」 「遅かったね」  飛び交う清らかな笑い声にやっと心が解れていくのを感じて、自ずと口角が上がる。  職場(ここ)は私のオアシスだ。  女性向けランジェリーのオンラインショップ「アクア」。  ここで私は企画開発、仕入れや営業といった全般の業務を行っている。  小さな会社なので、少ない社員達全員が、ほとんどの業務をこなしているのだ。  ここには女性社員しかいない。  それも、既婚者や彼氏持ち、私のように仕事に専念したい人など、つまり出会いを求めている人がいないので、私にとってとても働きやすい環境だった。 「またナンパされてたんでしょ」 「美人も大変だね」 「ここまでくるとなんか同情するわ」  先輩や同僚達がケラケラと笑う。  その笑い声に慰められて、居心地の良さを感じながらノートパソコンを開いた。 「新しい矯正下着のデザイン案できました」 「うっそ、はっや!」 「さすが綾ちゃん」  ここには、私にレッテルを貼る人も、勝手な先入観で白い目を向ける人もいない。  頑張れば頑張ったぶん、実績で評価してくれる。  だから私は、仕事だけでいい。  そう思いながら、24年間彼氏なしを保持しているのだった。  
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