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見るからに上質そうな紙袋。よく見ると有名なアパレルブランドのロゴが刻印されていた。
恐る恐る中身を取り出し絶句する。
「これ……」
美しいレースがあしらわれたベージュのワンピースだった。
色合いは私の今着ているものとほとんど変わらないけれど、縫製や生地の質からして、きっと価格は数倍高価だろうと思う。
上品で、だけど可憐さも感じる美しいワンピース。
正直言って一目で気に入ってしまい、袖を通さずにはいられなくなってしまった。
お店の御手洗を借りてすぐに着替えると、鏡に映ったワンピースに惚れ惚れする。
同じ色を選んでくれたのは、彼の気遣いだろうか。
これを置いて、すぐに姿を消してしまったあの男。
これを機に何か見返りを求めるわけでもなく、下心を見せるわけでもなく、爽やかに去って行ったあの男。
とくんと激しく心臓が脈打つのに戸惑った。
彼は、今まで出会った男性とは違う。
何の含みもないような真っ直ぐな視線を思い出し、再び胸が高鳴った。
ずっと着てみたかった、着てはいけないように思っていた可愛らしいワンピースを、着ても良いと許してもらえた気がして。
サイズもピッタリなそのワンピースを何度も翻しては、しばらく鏡から離れられないでいた。
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