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小太郎
小太郎は近所の公園で捨てられていた所を、主人が保護した黒猫。
保護した当時は痩せて小さな毛玉の様だったのに、今やどっしりとしたフォルムで家の中を我が物顔で闊歩している。
小太郎と私は相性が悪い。
私には一切、甘えない。
それでも、近づいても怒ったりしない。
餌やりやトイレの始末、爪切り等の世話は、全部私がしているのに甘えるのは主人だけ。
主人が足元で甘える小太郎を見ながら言った。
「小太郎はお前が引き取って。」
「はぁ?あなたに懐いているのに。」
「赤ちゃんが生まれるから、猫は引き取れないよ。」
「赤ちゃんね…。」
「あとさ、この家で彼女と住みたいから、なるべく早く出て行って欲しい。
引越しをしたら連絡くれ。それまでは彼女のマンションに居るから。」
「なんだか、妊婦さんて無敵だね。」
羨ましいを通り越して妬ましい。
妊娠すればこんなにも大切にされるのか。
私だってなりたくて不妊になった訳じゃない。
それなのに、私と小太郎は主人に捨てられた。
私の嫌味に主人の眉間の皺が一層深くなった。
小太郎は主人に捨てられると言うのに、まだ足元で甘えていた。
「お前も小太郎みたいに可愛げがあれば…。」
「そうすれば変わった?」
「あぁ、変わったよ。」
「絶対、嘘。
あなたは自分の子供が欲しかったのよ。
だから、絶対に変わらなかった。」
私が言うと主人は目を逸らした。
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