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帝都での日々
帝都に到着して三日後。リトが帝都を訪れた主目的である、帝への目通り――帝は病に伏していた為、実際は摂政として帝国を統治する皇太子に、平原の現状と人々の撤退状況を説明した――は、あっけないほど無事に終わった。
「……」
だがリトの表情は晴れない。
「そなたの意見は了解した」
そのリトの、沈んでいても端正な横顔を見つめながら、エリカはリトの付き添いでともに立った、帝の宮殿の謁見の間の光景を思い起こした。
「しかしこちらにはこちらの考えがある。元老院とも協議するから、しばらく帝都に留まっているように」
平原には、『黒剣隊』が拠り所としていた砦には戻らないように。摂政皇太子テオは確かにそう、リトに申し渡した。それが、リトが落ち込んでいる理由。
「戻るな、なんて……。魔物の跋扈を、皇太子殿下は放っておくつもりなのだろうか?」
小さく呟かれたリトの言葉で、帝都近くの森でエリカ達を襲った重苦しい影の姿が不意に、エリカの脳裏を過ぎる。
〈あんな恐ろしいものを、野放しにしておくなんて〉
正直なところ、エリカはリトの心配に賛同していた。
「しかし命は命ですよ、リト殿」
そのエリカとリトを窘めるように、リトから首尾を聞いた家令ダリオが気遣わしげな声を出す。
「せっかくですから、しばらく帝都で休まれてはどうでしょうか」
平原では、跋扈する魔物達との対峙で身も心も安まる暇が無かったでしょう。ダリオの言葉に、リトは素直に頷いた。
「あ、だったら」
しかしまだ落ち込んで見えるリトに元気になってもらおうと、エリカも言葉を紡ぐ。内容は、エリカがずっと望んでいたこと。
「私に、剣の技、教えて」
「エリカお嬢様!」
「分かった」
叱る口調のダリオの後で、リトが頬を緩める。そのことが、エリカをほっとさせていた。
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