輪廻

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輪廻

シダレヤナギの櫻散りし頃、良く物想いに耽る癖があった。随分、考えてしまい、良く何度も何度も道を踏み外す頃合いであり、其れは輪廻の輪であろうよなー。 放火魔である、坪内の身元が割れ、そんな外道を赦していた、関所にて、人々は群れ、つどえど、人の群れがモノの道理であろうとは、よもやよもや、誰も信じず、答えなど最早、知る術も無かろう。 傷が癒えない彼は、その疼く痛みに、楯突いて来たが、痛みが再燃した。 ちょうど、烏合(うごう)驟雨(しゅうう)が、人々の寝静まる、寒々と冷え切った屋内に置いて、そう云う過去の古傷が、ぶり返すと、先刻も、申しておった。 黒衣を纏う、千年万来の黒装束。 其れは、キッと睨み付け、眼光がほとばしる閃光が、眩い。 何処ぞへ行こうとしておる? そう、きびすを返す問いに我は答えず、黙した。 其れは、負けを認めるーそう、受け取れば宜しいか? 確認するまでもナイ。余計な事は言わぬが華。 互いの間に、最早、密約等無用の長であった。 そう言えば、先日不思議な夢を見た。 藤ノ花が、咲き乱れておったのだ。 其れは時節柄であろう?我も見た。 否、そうではなく、私が言いたいのは、藤花に集う蝶の飛び交う様が、異様極まりなかったと言うことだ。 ん? 何のことだ?訳がわからぬ。 彼には、そんな千里眼など、特異等、無い。 ?オマエはナニヲ勘違いしておる? 彼は、話の腰を折られたと呆れ返っておった。 霊感等、そもそもナイ。 しかしー?不思議だ、何故オマエには霊が視えるのだ? 果て?何のことダ? シラを切るな。お前は何度も何度も、余の前で、奇蹟を起こしておる。其れが、外れた試しは無い。オマエには視えておるのであろう? …自白するわけでは無いが、私には、自分がこの世界を気に入っておるとしか、到底想えず、出なければ、縁を切るのが道理。処が、儂は、その世界線が如何やら、この世界の真髄の理な気がスル。 死んでしまえばイイ。そんな世界など。我々の存在など、必要のない無益な世界へいけば良いではないか、ノォ?貴殿の責務では御座らぬであろう? 彼は、重荷を降ろそうとしていた。 死んで欲しい奴等など、吐いて捨てる程或る。 そんな事は、当たり前に我々は目にする。否が応でも。 いつ迄白黒着け続ければ、貴様は気が済む? 下らぬ愛など、消せば良い。オマエの愛は、愛ではない。 無愛と言うのだ。 ムアイ? そうだ、そう詠む。 彼の表情は、凄まじく、無味、能面の様で、不気味だった。感情という一切の人間らしさとしての、不可欠な、生きる上で必要な、人間の感情、喜怒哀楽、其れら、全てを棄て去り、宵闇に消し去った。 削ぎ堕として、しまった。其れが理性を壊すから、邪魔だと、無になった迄だった。 想像を絶する、苦行。 過去の古傷の為、失いかけたが、取り戻した自尊心。 やっと、手にした至高の頂。 その一切合切全て、棄てた。手にして、自分を取り戻したかに見えた。だが、彼は、もうそう言う、高みの見物客には、見限ったのだった。夜廻り等に、執着してなど居なかった。 彼は、怒りを露わに出すのではなく、怒りという内情をうち消す、その全集中の構えー深い、深呼吸、動転する理性を整えて、還元して、解き放った。 その声は、先代に仕込まれた、刷り込み教育とは一線を画している。 全く真逆、怒りに打ち震える、慟哭を、全て無に帰す、無限の構え、無人剣だった。 そこには、誰も存在しなかった。 自身に宿る、潜在的無意識すらも、皆無。 刀に込める、罪を宿いし、紛い物達の、怨念も、微塵も無かった。 全て無に帰す。 生きていた者も、死んだ者も等しく、やがて、巣立ちの雛鳥も、やがては大人になる。 その時を我々は見送る。 慈愛を持って、刀心、我を映す、逆さ鏡。 我々は目を瞑り、見送る。 愚かな魂よー "微笑め" ただ、無邪気に。 そう、口にした途端、今目の前にあった筈の、幻惑も消え去り、遺ったのは、胴体だけの、腐食した肉塊だけになった、屍人の残穢(ざんえ)に過ぎなかった。 たった、ヒトリー そう云うオンナを救った過去がある。 過去を振り返り、婚姻の血、盟約を交わしたオンナが居たのだった。 子供も生まれたかも知れなかった。そんな未来があった筈なのに…ナぁ 塞ぎ込み、自身が背負った、贖罪を彼は贖う(あがなう)わけにもいかなった。 失くしたものはもう、取り返せない。 冷酷で非常な現実のみ、彼は今でも背負っている。 人は自害したにしろ、残された者は、ただ打ちひしがれるだけー。 無惨也。 嗚呼、何とも無惨な冷酷。 酷く、乾ききった土地に、人を意のまま、操り先導する術を持つ存在がかつては実在した。 しかし、操れぬ者、無法者、馬鹿な暴れ馬に過ぎなかったが、あか抜けて、失った記憶全て取り戻した時分に思い至った。マトモに、シラフに戻ったら、廻り全てが、怪異だった。 病に、過去にされた仕打ちに、心まで毒された者どもの戯れ。 そう云う奴らばかり 可哀想な奴等、其れバカリ。 手向けの花、誰の為だ? 我の為だ。 違う。死んだ人間の為に、くべる花等、貴殿が死んだら、最早誰も生けぬ。 其れ程虚しい事があるだろうか? 遺された者は、口伝も、継承されぬ。 生きた人間のみにしか、其れは宿っては折らぬのだから… ヒトこそ、怪異。 その、見た目の体躯に宿し、本体の裏の裏、其処に宿し、破戒の草原、其処を叩ケ。 何をさっきから…? 彼は自分自身ではない別モノの案件をが語り出したのを、身の毛もよだつ想いをひた隠しにして、隠していたのに、バレてしまったのだった。 彼には、すべて簡単に見透かされて、彼が絶対、口には出来ず、悔いる過去の古傷が、全て、彼の内実が透けて、視えるのだった。 彼は、他人の言いたかった事を、代わりに言っている。彼は、そんな事等、微塵も想ってはいない。 ハァ??!?! 唖然とする、同胞。 彼は、黒衣を纏う、次代が担う、未来人。 時代の代弁者。 語れぬ者の身代わりに其れを執行するモノである。 しかし……皮肉にも、彼は自己犠牲の賜物に、また舞い戻った訳カ……。 経緯を知っているだけに、複雑な心境だ…。 如何なる覚悟で底へ向かうのか、想像するに、固くない。常人には、到底真似出来ぬ。 深淵に深く深く、入り浸って、深部に巣食う、異常に膨れ上がる蝶たちの群れが、不快に感じた違和感の正体は、針の様な刺々しさが、青虫の時から、害虫として、触れてはならぬ、蛾の幼虫だが、駆除しても、キリがなく、下手に触ると、皮膚が被れる。 成長すると、街路灯の火花に、寄っては消え、また、無尽蔵に湧き出す、人間が忌み嫌うモノであった。 何処かで、嫌い何処かで、棄てたい過去の、残滓。 弱肉強食の原理は、目の前の漢を、損壊し、其れをトラウマに刷り込むのに、時間は要しなかった。 簡単に人は其れを信じてしまう。 闇の夜、黒衣を纏う漢アリけり。 其れは随分タガはズレている。 恵まれた体躯とは裏腹に、ゾッとする憎悪を、身に宿している。 好きなのは我の本能だった。
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