6人が本棚に入れています
本棚に追加
輪廻
シダレヤナギの櫻散りし頃、良く物想いに耽る癖があった。随分、考えてしまい、良く何度も何度も道を踏み外す頃合いであり、其れは輪廻の輪であろうよなー。
放火魔である、坪内の身元が割れ、そんな外道を赦していた、関所にて、人々は群れ、つどえど、人の群れがモノの道理であろうとは、よもやよもや、誰も信じず、答えなど最早、知る術も無かろう。
傷が癒えない彼は、その疼く痛みに、楯突いて来たが、痛みが再燃した。
ちょうど、烏合の驟雨が、人々の寝静まる、寒々と冷え切った屋内に置いて、そう云う過去の古傷が、ぶり返すと、先刻も、申しておった。
黒衣を纏う、千年万来の黒装束。
其れは、キッと睨み付け、眼光がほとばしる閃光が、眩い。
何処ぞへ行こうとしておる?
そう、きびすを返す問いに我は答えず、黙した。
其れは、負けを認めるーそう、受け取れば宜しいか?
確認するまでもナイ。余計な事は言わぬが華。
互いの間に、最早、密約等無用の長であった。
そう言えば、先日不思議な夢を見た。
藤ノ花が、咲き乱れておったのだ。
其れは時節柄であろう?我も見た。
否、そうではなく、私が言いたいのは、藤花に集う蝶の飛び交う様が、異様極まりなかったと言うことだ。
ん?
何のことだ?訳がわからぬ。
彼には、そんな千里眼など、特異等、無い。
?オマエはナニヲ勘違いしておる?
彼は、話の腰を折られたと呆れ返っておった。
霊感等、そもそもナイ。
しかしー?不思議だ、何故オマエには霊が視えるのだ?
果て?何のことダ?
シラを切るな。お前は何度も何度も、余の前で、奇蹟を起こしておる。其れが、外れた試しは無い。オマエには視えておるのであろう?
…自白するわけでは無いが、私には、自分がこの世界を気に入っておるとしか、到底想えず、出なければ、縁を切るのが道理。処が、儂は、その世界線が如何やら、この世界の真髄の理な気がスル。
死んでしまえばイイ。そんな世界など。我々の存在など、必要のない無益な世界へいけば良いではないか、ノォ?貴殿の責務では御座らぬであろう?
彼は、重荷を降ろそうとしていた。
死んで欲しい奴等など、吐いて捨てる程或る。
そんな事は、当たり前に我々は目にする。否が応でも。
いつ迄白黒着け続ければ、貴様は気が済む?
下らぬ愛など、消せば良い。オマエの愛は、愛ではない。
無愛と言うのだ。
ムアイ?
そうだ、そう詠む。
彼の表情は、凄まじく、無味、能面の様で、不気味だった。感情という一切の人間らしさとしての、不可欠な、生きる上で必要な、人間の感情、喜怒哀楽、其れら、全てを棄て去り、宵闇に消し去った。
削ぎ堕として、しまった。其れが理性を壊すから、邪魔だと、無になった迄だった。
想像を絶する、苦行。
過去の古傷の為、失いかけたが、取り戻した自尊心。
やっと、手にした至高の頂。
その一切合切全て、棄てた。手にして、自分を取り戻したかに見えた。だが、彼は、もうそう言う、高みの見物客には、見限ったのだった。夜廻り等に、執着してなど居なかった。
彼は、怒りを露わに出すのではなく、怒りという内情をうち消す、その全集中の構えー深い、深呼吸、動転する理性を整えて、還元して、解き放った。
その声は、先代に仕込まれた、刷り込み教育とは一線を画している。
全く真逆、怒りに打ち震える、慟哭を、全て無に帰す、無限の構え、無人剣だった。
そこには、誰も存在しなかった。
自身に宿る、潜在的無意識すらも、皆無。
刀に込める、罪を宿いし、紛い物達の、怨念も、微塵も無かった。
全て無に帰す。
生きていた者も、死んだ者も等しく、やがて、巣立ちの雛鳥も、やがては大人になる。
その時を我々は見送る。
慈愛を持って、刀心、我を映す、逆さ鏡。
我々は目を瞑り、見送る。
愚かな魂よー
"微笑め"
ただ、無邪気に。
そう、口にした途端、今目の前にあった筈の、幻惑も消え去り、遺ったのは、胴体だけの、腐食した肉塊だけになった、屍人の残穢に過ぎなかった。
たった、ヒトリー
そう云うオンナを救った過去がある。
過去を振り返り、婚姻の血、盟約を交わしたオンナが居たのだった。
子供も生まれたかも知れなかった。そんな未来があった筈なのに…ナぁ
塞ぎ込み、自身が背負った、贖罪を彼は贖うわけにもいかなった。
失くしたものはもう、取り返せない。
冷酷で非常な現実のみ、彼は今でも背負っている。
人は自害したにしろ、残された者は、ただ打ちひしがれるだけー。
無惨也。
嗚呼、何とも無惨な冷酷。
酷く、乾ききった土地に、人を意のまま、操り先導する術を持つ存在がかつては実在した。
しかし、操れぬ者、無法者、馬鹿な暴れ馬に過ぎなかったが、あか抜けて、失った記憶全て取り戻した時分に思い至った。マトモに、シラフに戻ったら、廻り全てが、怪異だった。
病に、過去にされた仕打ちに、心まで毒された者どもの戯れ。
そう云う奴らばかり
可哀想な奴等、其れバカリ。
手向けの花、誰の為だ?
我の為だ。
違う。死んだ人間の為に、くべる花等、貴殿が死んだら、最早誰も生けぬ。
其れ程虚しい事があるだろうか?
遺された者は、口伝も、継承されぬ。
生きた人間のみにしか、其れは宿っては折らぬのだから…
ヒトこそ、怪異。
その、見た目の体躯に宿し、本体の裏の裏、其処に宿し、破戒の草原、其処を叩ケ。
何をさっきから…?
彼は自分自身ではない別モノの案件を私自身ではない別モノが語り出したのを、身の毛もよだつ想いをひた隠しにして、隠していたのに、バレてしまったのだった。
彼には、すべて簡単に見透かされて、彼が絶対、口には出来ず、悔いる過去の古傷が、全て、彼の内実が透けて、視えるのだった。
彼は、他人の言いたかった事を、代わりに言っている。彼は、そんな事等、微塵も想ってはいない。
ハァ??!?!
唖然とする、同胞。
彼は、黒衣を纏う、次代が担う、未来人。
時代の代弁者。
語れぬ者の身代わりに其れを執行するモノである。
しかし……皮肉にも、彼は自己犠牲の賜物に、また舞い戻った訳カ……。
経緯を知っているだけに、複雑な心境だ…。
如何なる覚悟で底へ向かうのか、想像するに、固くない。常人には、到底真似出来ぬ。
闇夜に居座る
深淵に深く深く、入り浸って、深部に巣食う、異常に膨れ上がる蝶たちの群れが、不快に感じた違和感の正体は、針の様な刺々しさが、青虫の時から、害虫として、触れてはならぬ、蛾の幼虫だが、駆除しても、キリがなく、下手に触ると、皮膚が被れる。
成長すると、街路灯の火花に、寄っては消え、また、無尽蔵に湧き出す、人間が忌み嫌うモノであった。
何処かで、嫌い何処かで、棄てたい過去の、残滓。
弱肉強食の原理は、目の前の漢を、損壊し、其れをトラウマに刷り込むのに、時間は要しなかった。
簡単に人は其れを信じてしまう。
闇の夜、黒衣を纏う漢アリけり。
其れは随分タガガはズレている。
恵まれた体躯とは裏腹に、ゾッとする憎悪を、身に宿している。
好きなのは我の本能だった。
最初のコメントを投稿しよう!