神無月

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神無月

萎びた左。 枝垂れ柳 我は弧を描く、半円、鼓舞の舞 袖の白雪。 孤独の美、尚も、深い澱み有りけり 西洋被れの成れの果て、かぶく者ありけり。 無様に地に膝をつき、我は上を見やる。 悔いはないか? されども、その漢、尚も我に迫りける。 尚もしつこく。 我は呆れて、何がそうオマエを怒らせる? 問い詰めれば、鍛え抜かれた肩幅の剛健な出立ち、我が、一人では、よもや取り押さえ切れぬ。 逞しいその腕や、肩麗しい。 ウットリと見惚れ、我は袖の白雪を挟んで、彼に、ウットリ酔しれる。 答えにならん 彼はそれを振り切り、尚も我に、刃向かう。 怒るわけもしっていた私は、彼については、なるべく、はっきりとものを言わねば、引き下がらぬとわかっていた。 彼に出来るだけ、嘘や、避ける行為、向き合うことから、逃れようとすると、彼は途端に豹変する。 しかし、この男にどう言う手段を使えば勝てる、否、分かってくれるものだろうか? 長けたものは、迂回して、彼のめんどくささには、縁がないと離れていった。 そうやって、まともにムキになり、躍起にしていると、相手は尚も喰ってかかって来るので、めんどくさいのである。 私は、彼に対して、真正面から立ち向かうのも、えらぶるのもやめて、ただ、去なす様に、彼を流麗に、ウフフと笑いながら、彼を躱した。 ワテには縁のない事、そげな事言われても、我には貴殿の目がない。その目がない限り、我には、到底、足りぬのだ、其方の目にはなれぬ。 ハッキリ、私はお前に味方など出来ぬ。お前の求める答えなど、どうせ、愚痴を吐くことのみ、答えなどではないのであろう、やれやれ、結果、聞き相手が、誰もいないのだ。 その腕では、口だけの奴、誰も相手にしない。 しかし…何故儂は彼を避けるのだろう? 顎をさすりながら、考えてみたら、彼の事が気に食わないと言いたいのだろう。 其れを彼は気に食わないとまさに、嫌うもの敵同士だな? 答えにある程度、算段が見えたので、私は彼の側に付くことにした。 本来なら、こんな手は使いたくもない。だが、可哀想な漢、その想いを、見捨てたら、我の夢枕に、この男が立つではないか。誠に、やれやれだ。 夢見まで、這い出て来るとは! その幽玄、儂は初めてミタ この漢、怒り狂うておる。 その怒りは、皆も相手にしなかった。 相手にしたものは既にこの世にいない。 良い人は相手をしてしまう。 だが、イヤな人になれば、相手から離れていく。 物事は、好意が失せてしまえば、人はやがて、離れるのと同じである。 私もあの頃ではない。 もう、真面目にしているのだ。 何時迄も、餓鬼ではいられないのだ。 ビョウビョウと、風吹く折。 木立の間で、彼は、独り、荒れ狂う様が、様子がおかしい。 強く進めば、角が立つ。 萎びやかに、摺り足で、靡く様な、流麗な動作で、壊す。 チカラでは無く、水を差し込む様に、洗礼の滝を落とし込む。 ドドドド!!! 滝が叩きつけるかの様に傾れ込む。 男は堪らず、去っていく。 儂には自然の怖さをようく、わかっておる。 人より天災が何よりも怖しい。 その怖さに、歳をとると、怯え出した。 悪天の中を、肌を出した、その半袖では、極寒には、勝てん 天賦の才、儂より強いもの、この世に無数無限。 永遠に途切れることなき、無限螺旋。 断れば良い。 否"そうではござらん" 奴に同意したが最後、彼は何処までも付け入る。 そう言う付け入る隙、一切与えてはならん。甘さを儂は捨てねばならん。 答えなど、くれてやるな。 下手な甘えは、相手のためにならん。 そう、儂は何処までも甘かった。 その甘えが自分の落ち度 その事を自覚しないままだと、生を縮める。 甘さが命取りと心得足り。 髪の毛、事細かに繊細に、振り乱れぬ 挙動に不審あらず。 猛り狂う漢に、無惨な死相が、浮かび始める。 一切の、情けを捨てた。 役に徹し、我が宿命、其れのみ この漢に、既に、戦意が無いものと見て、私は、永きに渡る、彼との好意を、まぼろしだったと諦める。 仕事に、厳しさを、粗を探す。 "雑" 断。 無駄なモノと知る。 無駄を一切削ぎ落とした、竜泉の泉より、湧き出る、その水の剣、彼も、また、仲間に加わりたいのだと知る。 儂はその孤独を、苦に寂しさを抱く青年の胸の内、哀れと知る。 優しさを失くしていたのは、儂 この漢の抱える孤独は、妄想と知らしめねばならん。 少なくても、その事をわかっておるのは儂だけである。 話せ 聴き耳を立て、無駄にしない 流れの中の、一つの駒とおぼしきもの、世相の仲間と哉けり。 訪れる無縁と言う思い込み、幻影、マボロシと知るなり。 綻ぶ彼の顔は、温かい。 人肌哉けり。 自然は寒さを感じる頃合い 旧暦の神無月で或る。 使用参考映像:ETV特集 黒澤明が描いた『能の美』
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