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「あああ、つまらないわ!!」
幸福最上院果報は大声をあげた。
「どうなされました、お嬢様」
執事の快刀乱麻がタイミングを計ったかのようにドアを音もなく開けて入ってきた。
ここは果報の家である。
しかし一般的なイメージの家とはだいぶ違う。広大な敷地に、見るものを圧倒するような佇まいの西欧風の宮殿。正面に噴水、左右対称の建物。確かに日本のはずだが、どこをどう見渡しても外国としか思えない景色。初回訪問の来客は玄関前であっけに取られて立ち尽くすのがお決まりのパターンである。
そこで音もなく両開きの扉が使用人によって開かれる。
玄関から入ると大理石のフロアと高い天井が広がる。どこからともなく妙なる音楽が聴こえてきて、壁に飾られた肖像画が来客を見下ろし、その下から伸びる階段にはレッドカーペットが敷かれ、「ようこそいらっしゃいました」と使用人たちが並んで出迎える――そんな屋敷である。
さて、そんな屋敷に住む者はどんな生業をしているのか――。
はっきり言って、何もしていない。
幸福最上院家は、放っておいても幸福が舞い込んでくる脅威の一族なのである。
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