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それは幸福最上院家一族共通の悩みだった。先代からも聞いていたし、入口の大広間に飾られた肖像画、その額縁にもなぜかフランス語で刻まれている。
――幸福も、当たり前になれば退屈の種となる。
執事は主人との会話に意識を戻した。
「そして当たったのですね、お嬢様」と心地よいテノールの声で言う。
「ええ、当たりましたわ。当然のごとく1等が当たりました。……ああなんてつまらないの!!」
彼女は深く深くため息をつく。
幸福最上院家の前ではおよそ一切の障壁が生じない。宝くじを買えば当たり、街にショッピングに出れば必ず芸能人に出くわし、店に入れば「記念すべき〇〇人目のお客様です!」と歓迎され、度重なるラッキーハプニングに辟易して自宅にひきこもり、気晴らしに庭を散歩した時には1km先に隕石が落ちて「研究のために買い取りたい」という依頼が殺到した。
「面倒なので寄付します」という果報を説き伏せて、問題なさそうな機関の名前を書いたカードをランダムに引かせて乱麻は処理した。
そう、幸福最上院家の一族はなにをしてもことごとく上手くいく。なにもしなくても生まれながらに美貌と優秀な頭脳を持ち、スポーツ万能、金はどういう仕組みなのか次から次へと入ってくる。最早一族の手に負えない――というか面倒くさいこともあり、一族は使用人を多く雇っていた。
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