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「親は子供の幸せを願って名前をつけます。
不幸な名前などつけられませんよ」
「……」
果報は沈黙する。外から鳥の鳴き声が聞こえてくるほどの静寂だった。
「……なによ、私とそう年も変わらないくせに偉そうに言うのね」
「申し訳ございません」
ふん、と軽くすねるように言って果報は庭に目をやる。
この屋敷は祖父の幸福最上院猪突猛進が建てたものだった。
彼が「和服建築も飽きたな」とポツリと呟いた時にはもう建ったも同然だった。金は有り余っているというのに様々な入金が相次ぎ、住宅メーカーの株価が上がった。
宮殿を建てたいという猪突猛進の要望を聞いて執事が問い合せた時には、何十年先まで予約待ちの建築デザイナーの手が偶然空き、凄腕の職人が集結し、工事中の仮住まいを検討する前に世界のセレブや高級ホテルが名乗りを上げた。「幸福最上院家に関わると幸福が舞い降りる」と言われているからだ。
一族は結局無作為に選んだ、一流だが赤字続きの老舗旅館に滞在した。旅館は翌月には奇跡のV字回復を遂げた。
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